2040年の地域医療はどう変わるのか ― 新たな地域医療構想から見えてきた、これからの医療機関に求められる役割 ―
「2040年の地域医療はどう変わるのか。」
厚生労働省が示した「新たな地域医療構想」は、単なる制度改正ではありません。人口減少、高齢化、人手不足、DX・AIの普及など、社会そのものが大きく変化する中で、日本の医療をどう維持していくかという国家レベルの方向性です。
この地域医療構想の作成に関わった厚生労働省医務技監の講演の記事がm3に乗っていました。特に印象的だったのは、「医療者の考え方そのものが、改革の成否を左右する」という視点でした。
これまで医療政策は「病床をどうするか」「診療報酬をどうするか」といった制度設計が中心でした。しかし今回は、「医療者や患者のマインドセット」まで踏み込んで議論されています。制度だけではなく、人の考え方まで変えなければ2040年の医療は維持できない。そのような強いメッセージでしたが…。
今回のブログは地域医療構想を読んで大きな雑感について、です。細かいツッコミは次のブログかな?
「高齢者が増える時代」は終わらず、「働く人が減る時代」が始まる
これまで日本の医療は、高齢者の増加に対応することが最大の課題でした。しかし2025年以降は状況が徐々に変わります。本当の問題は、高齢者が増えることではありません。医療や介護を支える「働く人」が急速に減少していくことです。
つまり、「患者が増える」ではなく、「支える人がいなくなる」ことが最大の課題になります。限られた人数で、より多くの患者さんを支えられる体制づくりが必要になります。
そのためには、厚生労働省の言う通りDX、AI、ICT、業務効率化が重要になります。ただし、重要なのは「何でもAI化すること」ではありません。AIやDXは、人がやらなくてもよい仕事を減らすための道具です。例えば、情報整理、書類作成、データ入力、スケジュール管理などは積極的に効率化できます。
一方で、患者さんの言葉を整理し、本当の困りごとを言語化すること。人生の優先順位を一緒に考えること。悲しみや不安に寄り添うこと。こうした共感を必要とする仕事は、人だからこそ担える役割です。
AIは優秀なアシスタントにはなれても、「一緒に悩む仲間」にはなれません。これからは、人にしかできない仕事へ医療者の時間を集中させることが重要になると考えています。
外来中心の医療から、地域全体を支える医療へ
2040年に向けて最も変化するのは、外来・入院・在宅医療のバランスです。外来患者数は多くの地域で減少しています。佐賀ではもう減少傾向です。一方で、85歳以上の増加に伴い、在宅医療や介護との連携は今後さらに重要になります。つまり、「一つの医療機関だけで完結する医療」から、「地域全体で患者さんを支える医療と介護」への転換です。
んー、介護と医療かな。
紹介状を書くだけでは十分ではありません。患者さんの生活背景や価値観、ACP(人生会議)、家族の状況まで共有しながら、医療・介護・福祉が一つのチームとして機能することが求められます。地域医療構想とは、病院の再編だけではなく、このような地域ネットワークを社会全体で作る取り組みなのだと理解しています。
正直なところ、医療と介護を病院という場所でもっと発揮できると思うのですが、「ヘルパーが病院に入れない」「病院では管理が主体となる」などなどハードルがあります。そのハードルが超えられたら本当はいいのになぁと感じています。
医療政策だけでは医療は変わらない
今回の講演で最も新鮮だったのは、「改革を阻害しているのは制度だけではなく、医療者と患者双方の保守的な考え方である」という指摘でした。
確かに、医療者は自分の専門性を磨いてきました。その専門性を発揮したいと思うのは自然なことです。一方で、地域が求める医療と、自分がやりたい医療が一致しないこともあります。だからこそ、「社会が必要としている医療」という視点が必要になります。
ただし、この問題は医療者だけの責任ではありません。医療機関は診療報酬という制度の中で経営しています。新しい設備や人材教育に投資しても、その後すぐ制度が変更されれば、投資を回収できなくなることもあります。こうした経験が積み重なれば、新しい挑戦よりも現状維持を選ぶのは自然な経営判断です。医療機関が保守的になる背景には、制度への信頼性という課題もあるのではないでしょうか。
だからこそ、制度設計だけではなく、現場が安心して挑戦できる環境づくりも重要だと感じます。ある意味、この保守的なマインドが形成された理由は厚生労働省の医療政策が原因でもあるわけです。
在宅医療は「家で診療すること」ではない
在宅医療というと、「家に訪問して診療すること」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、本質はそこではありません。本人が住み慣れた場所で、できるだけ穏やかに生活できること。その生活を支えることが在宅医療の目的です。
医療は生活の一部であり、食事や入浴、排泄、介護が成り立たなければ、医療だけでは患者さんを支えられません。そのため、今後は医療と介護を切り離して考えることはますます難しくなります。また、介護職やヘルパーも減少していくことを考えると、将来的には在宅医療の形も変化していく可能性があります。
地域全体で限られた人材をどう活用するかという視点が欠かせません。多分、医療という限定したスマートシュリンクしてコンパクトシティを目指してコストを削減するのか、多様性を認めて皆でコストを負うのか政治的な判断が強くなっていくんじゃないかな。医療どうこうより街としてどうするかみたいな。
「良い医療」とは、コストパフォーマンスの高い医療でもある
医療費の増加が議論されることは少なくありません。しかし、本当に大切なのは「安い医療」ではなく、「価値の高い医療」です。例えば、困った時に相談できる場所がある。家族が最期まで穏やかに過ごせた。必要な時に適切な専門医につないでもらえた。こうした安心感は数字では測りにくいものですが、地域医療の大きな価値です。
さらに、信頼関係があることで不要な検査を減らせる。病気を早期発見できる。将来起こり得ることを患者さんと共有できる。こうした積み重ねは、患者さんの負担だけでなく、社会全体の医療費削減にもつながります。
「社会保険料を払っていて良かった。」
地域の人にそう思ってもらえる医療こそ、本当に価値のある医療ではないでしょうか。
総合診療の価値はさらに高まる
高齢化が進むほど、一人の患者さんが複数の病気を抱えることが増えます。そのため、内科だけではなく、整形外科、皮膚科、精神科、外科的な初期対応まで含めて幅広く診られる医師の重要性はさらに高まると考えられます。総合「内科」専門医では足りていない感じがします。
地域では、「専門医がいること」よりも、「まず相談できる医師がいること」の価値が大きくなります。必要に応じて専門医へ紹介し、治療後は地域で継続して支える。その入口となる総合診療の役割は、今後ますます重要になるでしょう。
地域医療で本当に重要なのは「挑戦し続けること」
2040年に向けて制度は変わります。社会も変わります。人口も変わります。しかし、変えてはいけないものがあります。それは、地域の人が安心できる医療を提供すること。そして、社会から必要とされることに挑戦し続けることです。
新しい技術も制度も手段に過ぎません。患者さんや地域にとって本当に価値のあることを見失わず、必要なことを一つずつ積み重ねていく。それが、これからの地域医療に求められる姿ではないでしょうか。
古い言葉に、「一燈照隅、万燈照国」という教えがあります。一人ひとりが、それぞれの持ち場を照らし続けることが、やがて地域全体を支える力になります。
2040年に向けた地域医療もまた、その積み重ねの先にあるのだと思います。
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