クリニックはなぜ時間外診療をしてくれないのか?

「あと10分待ってくれたら、着くので開けていてくれませんか?」 「18時半になら行けるのですが…」 「(17:30に)あと15分でつきます。(着かない)」 当院にもこんなケースは時々あります。受診したい気持ちや困っていることは実際分かっていて対応したい気持ちもあるのですが…。 病院における「時間外診療」は、多くの人にとってありがたい仕組みです。特に急な発熱やケガにも対応してもらえます。しかし、ほとんどのクリニックは時間厳守で閉まってしまいます。 なんて優しくない病院って言われそうですが、これって制度設計と報酬のバランスが崩れているために「割に合わない仕組み」になっているのです。 一般の方々から見れば、「仕事が忙しいから大変」「医療は公共サービスだから夜でも空いていてほしい」という感覚があるでしょう。ですが、医療も人が働いて成り立つサービスです。人件費、家庭生活、疲労の持ち越し――。これらの現実を抜きに「時間外を開けろ」と言うのは、いわばスタッフにサービス残業を強要するのと同じことになってしまいます。 以下では、実際の人件費や診療報酬の数字を使いながら、なぜ時間外受付が採算に合わないのかを具体的に見てみましょう。 1.時間外の「残業代」を数値で考える 医療従事者を時間外に残すには当然コストがかかります。ここでは仮に医師1名・看護師1名・事務1名が残る場合の人件費を考えます。 最新の 厚生労働省統計(e-stat) によると、全国平均で概算すると以下の時給水準です。 医師:約4,500円/時 看護師:約2,000円/時 医療事務:約1,200円/時 合計で 7,700 円/時 。これが、最低限かかる時間外労働の「給与コスト」です。 そして残業代としては通常25%割増が求められます。すなわち、 7,700円 × 25% ≒ 2,000円/時 が上乗せされる形になります。 では、時間外診療で医療機関に入るお金はどうでしょうか。現在の診療報酬体系では、時間外加算は 850円 に過ぎません。つまり、患者1人あたり850円増えるだけ。 単純計算すると、2,000円の割増を回収するには 最低2.2人の患者 が1時間に来院しなければ赤字です。もしくは受付、診察、検査、説明、処方、会計の全てを25分以内で済ませる必要があります。(本当はスタッ...