なぜ今、医学生も在宅医療を学ぶ時代なのか。佐賀大学での講義を通して


佐賀大学で在宅医療の講義をしてきました

先日、佐賀大学で在宅医療についての講義をしてきました。対象は医学部4年生の学生さんたちです。去年は5年生向けだったんですね。なので、ある程度病棟実習を経験していて、「臨床ってこういう感じか」というイメージがあった状態でした。ただ、今回は4年生です。まだ病棟実習もこれから、という学生さんも多くて。そもそも「臨床って何?」みたいなところからスタートだったと思います。

なので今回は、「在宅医療とは何か」を説明するというより、まずは“イメージを持ってもらう”ことをかなり重視しました。

AI時代だからこそ、「リアリティ」重視

今って、AIもありますし、PDFや教科書があれば、ある程度の知識は解説してくれる時代なんですよね。だから逆に、「現場の空気感」とか、「実際どう困るのか」とか、「何が教科書通りにいかないのか」みたいな部分は、人間が伝える意味がまだ大きいと思っています。

なので講義でも、できるだけ具体例を入れました。

例えば、「在宅でエコーを使う時って、病院みたいに綺麗にはいかないですよ」という話。

病院の検査と、在宅の検査は違う

講義の途中で、学生さんから「在宅ではどんな検査ができますか?」という質問がありました。これは結構反応が良かったですね。

在宅でも採血やエコーなど、ある程度の検査はできます。ただ、病院みたいに“条件が整っている検査”ではないんですよね。

例えば、ベッドの高さが合わない、患者さんが息止めできない、難聴で指示が聞こえない、痛みで体位変換できないみたいなことは普通にあります。教科書だと「息を止めてください」で終わるんですけど、現場だとそうはいかない。

そういう、“リアルなズレ”を感じてもらえたのかなと思っています。

在宅医療は、「終末期医療」だけではない

たぶん、学生さんもそうですし、地域の方もそうなんですけど。在宅医療って、「がんの終末期」「家で看取る医療」というイメージが強いと思うんですね。テレビの在宅医療はそんな話も多いですからね。もちろんそれもあります。

ただ、実際には慢性疾患の管理がかなり多いです。

高血圧、糖尿病、認知症、心不全、脳梗塞後、パーキンソン病、COPDなどなど。むしろ、“長く付き合う医療”という側面の方が強いかもしれません。なので、「通院が大変になってきた」「タクシー代がかなり負担」「家族の送迎が限界」という段階でも、訪問診療という選択肢は普通にあります。

「もう最後だから在宅」ではなく、「生活を維持するための在宅」ですね。

病院では難しいけど、在宅だからできること

病院には病院の強みがあります。特に急性期治療ですね。これは本当に重要です。ただ、一方で、在宅だからこそできることもあります。

例えば、自由。患者さんって、やっぱり自由を求めるんですよね。食べたいものを食べたい、好きな時間にトイレに行きたい、お風呂を待ちたくない、おやつを食べたい、お酒を飲みたい、タバコを吸いたい。もちろん、自由だから病気が悪化する人もいます。

でも、「管理されない生活をしたい」という気持ちは、かなり本質的な欲求なんだろうなと思っています。ちなみに施設はどうしても共同生活なので、入院とまでは言わないけど管理される一面があります。

例えば、こんなケースがあります

例えば、90代の認知症の患者さん。入院中は昼夜逆転が強くなって、ほとんど会話も減っていたんですね。ただ、自宅に戻って、デイサービスに通うようになってから、日中の日光を浴びる時間が増えて、スタッフさんや他の利用者さんとの会話も増えた。そしたら、食事量が少し戻って、笑う回数も増えた。

もちろん、病気そのものが治ったわけではありません。でも、「その人らしさ」が戻ることって、在宅だと結構あります。

在宅医療は、チーム医療そのもの

今回の講義でかなり強調したのが、ケアマネージャーさんや介護職とのコミュニケーションです。医師が偉いとかではなくて、在宅って、情報を持っているのは現場の介護職さんです。

「最近ちょっと元気ないです」「食事量が減ってます」「歩き方が違います」みたいな、小さな変化。これが診断につながることがあります。

逆に言うと、コミュニケーションが悪いと情報が入ってこない。すると診断精度も下がる。結果的に、患者さんに不利益が出る。

なので、「しっかりリスペクトして、一緒に支える感覚を持つこと」はかなり重要だと学生さんにも伝えました。

なぜ今、在宅医療を学ぶ必要があるのか

講義でも話しましたが、今は国家試験でも在宅医療の分野が普通に出てきます。つまり、「知らなくてもいい分野」ではもうないんですよね。しかも、在宅医療に全く関わらない医療職の方が、むしろ少なくなってきています。救急の先生でも、外来の先生でも、病棟の先生でも。

どこかで「家に帰せるか?」という話になる。だから在宅医療を知っていると、「病院しかない」ではなく、「家という選択肢もある」と考えられるようになる。

これは医療の幅として、かなり大きいと思っています。

在宅医療は、教科書通りにいかない

在宅医療そのものが、そもそも教科書的ではないんですよね。

単一疾患じゃない。複数の病気が重なっている。生活背景もバラバラ。家族関係も違う。経済状況も違う。なので、「正解」を当てるというより、「方向性」を考える感覚が近いです。

どうすれば、この人が今より少しでも安心して生活できるか。その積み重ねかなと思っています。

個人的に、在宅医療の好きなところ

時々、医療関係者と話す時にだけ言うのですが、在宅医療の好きなところってやっぱり、長く関われるところですね。入院って、どうしても退院があります。でも在宅って、年単位で関わることも多い。

積み上げた信頼関係が、そのままずっと続いていく。そこは在宅医療の、かなり好きな部分です。

最後に

今回、佐賀大学で講義をさせてもらった理由としては、去年も担当させてもらったことと、在宅医療に10年近く関わってきたこと、あとは佐賀大学の総合診療部多胡教授と同級生で頼みやすかったこともあるのかな~と思っています。

ただ、個人的には、こういう講義って「次の世代に引き継ぐ」という意味が大きいと思っています。在宅医療って、誰かが続けないと、その地域から消えてしまうんですよね。だからこそ、学生さんたちに少しでもリアリティを持ってもらえたなら、すごく意味があったのかなと思っています。

また機会があれば、今度は「在宅医療の質」みたいなところまで、もう少し踏み込んで話してみたいですね。

余談

去年は時間が余ったんですよ。20分くらい早く終わって学生さんはラッキーって思っていたかも?だから、今年は追加資料を持っていったんですが、余談とリアリティのプレゼンで逆に時間が足らないはめに!!

まじやべーって言いながらなんとか滑り込みセーフ。…いや、アウトだったかな?

あとは古巣の総合診療部の外来に顔を出しましたが、皆忙しそうで声をかけられず。駐車券の処理を失敗して、閉じ込められそうになりました。トホホ~

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