骨粗鬆症は「骨の病気」だけじゃない――転ばない、折らない、動ける体を守る
いやー、シルバーウィークですね!おかげでブログが進みます!ブログを書いていて良いのかシルバーウィーク!たまにはスプラトゥーンをしないといけません。アサリは塗りが大切仮説を証明せねばなりません。
さてさて、今回は骨粗鬆症のお話です。
「骨密度を上げる」だけじゃない
「骨密度が低いですね。骨粗鬆症の薬を飲みましょう」骨粗鬆症の診療では、こういう説明になることがあります。もちろん、間違ってはいませんが。
でも、僕自身は、それだけだとちょっとリアリティがないなと思うんですよね。骨密度の数字を上げることが、本当の目的なんでしょうか。あの、骨粗鬆症って「骨の病気」ではあるんですけど、僕はむしろ、これから先も自分で動ける時間を守るための病気として考えたほうが分かりやすいと思っています。特に女性では、年齢を重ねるにつれて骨粗鬆症が珍しいものではなくなっていきます。75歳くらいになると半数は骨粗鬆症でもおかしくないですね。
だからこそ、「骨粗鬆症になったから大変」というより、「これから先の生活を守るために、どう付き合っていくか」という話なんですよね。
骨粗鬆症で怖いのは「骨密度が低いこと」ではない
骨粗鬆症そのものでは、普段は痛くないことも多いです。だから、患者さんからすると、「骨がちょっと弱いだけでしょ?」という感じになりやすい。ところが、問題はその先です。骨が弱くなると、転倒などをきっかけに骨折することがあります。そして骨折すると、今まで普通にできていたことができなくなる。
歩く。買い物に行く。家事をする。外に出る。人と会う。こういう日常の一つ一つが少しずつ難しくなることがあります。
骨粗鬆症のガイドラインでも、脆弱性骨折はQOLやADLの低下につながり、健康寿命を延ばすうえで大きな妨げになるとされています。だから治療の目的は、単純に骨密度を上げることではなく、骨折を予防して、その先の生活を守ることなんですよね。
一度骨折すると、次の問題が始まることがある
診療をしていると、骨折には一つの流れがあるように感じることがあります。最初は手首の骨折。その後、背骨の骨折。さらに大腿骨近位部の骨折。連鎖反応ですね。もちろん全員がこの経過をたどるわけではありませんが。(昔ぷよぷよで20連鎖とか狙っていたなぁ)
ただ、骨折を一度経験すると、「また骨折する」という問題を考えないといけなくなります。特に背骨の骨折は、単純に「痛い」というだけではありません。背中が曲がってきたり、身長が縮んできたりする。女性の患者さんでは、「背中が曲がってきたのが気になる」「昔より身長が縮んだ」と、美容的な面を含めてショックを受けている方もいます。
つまり骨折は、骨だけの問題じゃないんですよね。生活そのものが変わってしまう可能性があります。
そして一番防ぎたいのが、骨折する → 動かなくなる → 筋力が落ちる → さらに転びやすくなる → また骨折するという悪循環です。患者さんからすると、「まさか、こんなことになるとは思わなかった」、家族としては「こんなに早く弱ってしまうとは思わなかった」ということもあります。
だから僕は、骨粗鬆症では「最初の骨折をできるだけ起こさない」という考え方が大切だと思っています。
「骨密度が低いから薬」だけでは、ちょっと足りない
じゃあ、骨密度が低かったら、すぐ薬なのか。もちろん、そこは一人ひとり違います。僕が診察するときに特に気にするのは、まず骨折したことがあるかどうかです。骨密度の数字だけを見るわけではありません。今までに骨折したことがあるのか。どこを骨折したのか。背中が曲がってきていないか。身長が縮んでいないか。喫煙歴はどうか。認知機能の問題はないか。薬をきちんと飲めそうか。こういうところを一緒に見ていきます。
同じ骨密度の数字でも、これまでの骨折歴や生活状況が違えば、考え方が変わってくるわけです。
最近の骨粗鬆症治療では、単に骨密度を上げるというだけではなく、「その患者さんにとって何を治療目標にするのか」というgoal-directed treatmentという考え方も提唱されています。
だから、「骨密度が○○だったから、この薬」という機械的な話だけではないんです。
薬より難しいのは、実は「運動」だったりする
骨粗鬆症の治療というと、薬の話が中心になりがちです。でも、実際に難しいなと思うのは、運動です。「運動してください」と言うのは簡単なんですけどね(高血圧症編でも記載しましたが)。忙しくてできない。膝が痛い。すでに骨折している。ADLが落ちている。そもそも一人では運動できない。色々理由はありますが。
だから、「毎日30分歩きましょう」みたいな話だけでは、なかなか続かない。僕は、まず5分でもいいと思っています。できることから始める。
それでも難しければ、介護保険のサービスが使えるのであれば、デイケアやリハビリテーションを利用する方法もあります。
骨粗鬆症のガイドラインでも、運動療法は骨折予防の治療戦略の一つとされています。ただし、年齢、活動性、転倒リスク、骨粗鬆症の重症度、変形性関節症などの運動を妨げる病気を考慮して、運動内容を考える必要があります。
だから、「運動しましょう」だけではなく、「この人なら、何だったらできるんだろう?」と考えることが大事なんですよね。
転倒は「体力」だけの問題でもない
もう一つ、診療していて感じるのが転倒です。転倒というと、「足腰が弱ったから」と思われがちです。もちろん、それもあります。でも高齢者の場合には、「自分が今どこまでできるのか」という認識の問題もあります。
例えば、「昔はできたから、今もできるだろう」と思ってしまう。でも、体のほうがついてこない。認知機能が低下している患者さんでは、そういうことが起こりやすくなります。「これは危ない行動だ」と認識できること。「今の自分にはここまでしかできない」と分かっていること。これも転倒予防では大切なんじゃないかなと思っています。
例えば、こんな患者さんだったら
例えば、70代後半の女性がいるとします。骨密度を測ったら、骨粗鬆症の範囲だった。でも本人は、「痛くないし、別に困ってないですよ」と言う。ここで、「骨密度が低いので薬を飲みましょう」だけで終わってしまうと、ちょっともったいない。よく聞いてみると、数年前に手首を骨折していた。最近、身長も少し縮んでいる。外に出る機会も減っている。そして、薬を飲むのも少し苦手。
こういう患者さんだったら、僕は骨密度の数字だけではなく、「この先、骨折を繰り返さないためにどうするか」という話をします。
骨折して動けなくなる。動かなくなって筋力が落ちる。さらに転びやすくなる。その悪循環を、できるだけ最初のところで止めたい。
そのために薬が必要なのか。運動をどうするのか。転倒をどう減らすのか。薬が飲みにくいなら、別の方法はないのか。一緒に考えていくわけです。
薬も「続けられるかどうか」が大事
骨粗鬆症の薬にも、いろいろな種類があります。
例えば、飲み薬が続けにくい患者さんであれば、月1回の製剤や、年1回の製剤、注射による治療など、治療方法を検討できる場合があります。
一方で、飲み薬には飲み方に注意が必要なものもあります。例えばビスホスホネート製剤。薬によって細かな違いはありますが、服用方法を守らないと十分に吸収されないものがあります。
「薬を出したから終わり」ではなく、「ちゃんと飲めていますか?」「飲みにくくないですか?」「困っていることはありませんか?」というところまで聞く。
これは、骨粗鬆症に限らず、慢性疾患の治療ではかなり大事だと思っています。
骨粗鬆症は、骨だけを診ればいいわけではない
例えば、同じ骨密度の患者さんが二人いたとします。一人は、骨折歴がない。もう一人は、過去に骨折している。同じようには考えません。さらに、喫煙歴がある。認知機能が低下している。薬を毎日飲むことが難しい。こういう条件が加われば、また考え方は変わってきます。
だから僕は、骨粗鬆症を診るときに、骨密度の数字だけを見ているわけではありません。「この人がこれからどう生活していくのか」そこまで考えたいですね。
骨粗鬆症は、一人で治療するものでもない
本当は、理学療法士さんとも一緒に取り組みたいと思っています。江口医院にはいませんけど。運動の部分は、医師だけで全部やるのは難しいですからね。栄養についても、必要に応じて管理栄養士さんと一緒に考える余地があります。江口医院にはいませんけど。ただ、栄養については何でも「カルシウムをたくさん取ればいい」という単純な話でもなく、研究によって議論が残っている部分もあります。このあたりは、僕自身も「全部これが正解です」と言い切るのではなく、分かっていることと、まだグレーなところを分けて考えたいと思っています。
そして、実際に骨折してしまった場合には、二次医療機関で手術などの治療を受けることがあります。そこで治療が終わってしまうのではなく、その後の骨粗鬆症治療や再骨折予防につなげていく。骨粗鬆症のガイドラインでも、骨折後の再骨折予防を目的としたFLS(骨折リエゾンサービス)が推奨されています。
江口医院で大切にしていること
骨粗鬆症について相談するなら、もちろん整形外科は非常に重要です。特に骨粗鬆症そのものを専門的に診ている整形外科の先生には、かなり詳しく相談できます。一方で、手術を中心とする整形外科では、骨粗鬆症の治療を地域のクリニックで継続してほしい、というケースもあります。
また、訪問診療が始まった患者さんの場合には、これまで通っていた医療機関に通院すること自体が難しくなることもあります。そういう場合に、普段の診療の中で骨粗鬆症の治療を継続していく。それも地域のクリニックの役割の一つだと思っています。
江口医院で大事にしているのは、骨密度の数字だけを見て薬を出すことではありません。
骨折したことがあるのか。背中が曲がってきていないか。身長が縮んでいないか。薬をきちんと飲めるのか。運動できるのか。転倒する危険はないのか。
そして、その人がこれからも自分らしく生活できるのか。そういうところまで含めて、一緒に考えることです。
「骨粗鬆症になった」ではなく、「これからも動ける」を考える
骨粗鬆症は、骨密度の数字だけを見ていると、あまり実感の湧かない病気かもしれません。でも、骨折すると話が変わります。動けなくなる。筋力が落ちる。外に出なくなる。生活範囲が狭くなる。そして、また転倒や骨折のリスクが上がる。
だからこそ、僕は骨粗鬆症の治療を、「骨を強くする治療」だけではなく、「これからも動ける時間を守る治療」として考えています。
薬を飲むのが苦手なら、それも相談してほしい。運動ができないなら、できない理由を一緒に考えたい。どの薬がいいのか分からなければ、それも相談してほしい。
骨折したことがあるけれど、今さら骨粗鬆症の治療を始めても意味があるのかな、と思っている方もいるかもしれません。そういうときも、一度話してみてください。
骨密度の数字だけでは分からないことが、意外とありますからね。
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