横文字ばっかり!トランスプロフェッショナル!?アドバンスド・エッセンシャルワーカー!? 第7回 在宅医療連合学会 in 長崎 参加報告(後編)


〜体験記のような、ちょっとした決意表明のような〜

学会の報告、と言いつつも、今回は“体験記”に近いかもしれません。

トランスプロフェッショナル=飛車が龍に成る

在宅医療の現場から見たとき、今回の学会で刺さった話題は、RPAやICTなどのワクワク系話題も数多くありましたが、その一方、静かに胸がざわつくような話題もありました。キーワードは「教育」──特に“トランスプロフェッショナル”という考え方に、改めて大きな意味を感じています。

たとえば、医師が看護師の仕事を少し担い、看護師がリハビリや介護に関わる。リハ職が訪問で看護的視点を持つ。こうした垣根の越境は、大病院ではなかなか体感しにくいものかもしれませんが、地域ではすでに“日常”になりつつあります。人口減少が進む今、役割の壁を越えていくことの大切さを、現場が先に感じ始めているのかもしれません。

実際、自分は採血もしますし、膀胱留置カテーテルを入れたりもします。たまに、ですがエンゼルケアをしたりもします。それって病院では基本は看護師さんの仕事ですよね。

教育の場にも、その風が吹いているようでした。講義に「トランスプロフェッショナル」の視点を組み込み始めている学校もあるようで、いずれ地域での連携や働き方が“教育の標準”になる日も近いのかもしれません。

若い人だけではなく、中年の専門家も「自分の仕事じゃねぇ!」「新しい仕事なんて無理!」なんて言わずにちょっとだけチャレンジしてみませんか?飛車が龍に成るみたいじゃないですか!かっこいい…!

それにしてもトランスプロフェッショナル…って分かりにくですよね。日本語で言えば、横断的知識を備えた専門家。矛盾した言葉に感じますね。Generalist with Subspecialty…またも英語…表現困難。受け売りですが、西洋の学問は細分化、専門化するほど専門家して評価されます。一方、東洋の学問はいかに統合出来るかも問われるとのことです。そういった意味では東洋の学問の一部を教育に取り入れることは有用かもしれません。

行政とのコラボレーション

次に行政との関係も印象的でした。医療過疎地域では、医師や看護師が行政と非常に密に連携しているケースもあるようです。病院の合併や閉鎖が相次ぐ中で、地域を守るには「お互い様」の連携が欠かせません。とはいえ、行政は数年ごとに人が入れ替わるのが常です。そのたびに一から関係を築くのではなく、動画や資料を使った“再教育”の仕組みがあれば…という声にも共感しました。これはすぐにでも取り入れたい視点です。というより…教育そのものが動画が主体ではなくても、少なくとも利用しないと、厳しい時代になりそうです。

医療の提供が多い地区ほど行政は危機感がないと行政の方が言われていました。医療の提供が少ない地区は、医師会だけではなく行政も必死とのこと。個人的にはまだまだ行政とのコラボレーションは少ないですね。まだ、必要性もあまり感じませんが…最近は行政とのコラボレーションの話題は多いですね。

ナースプラクティショナー(NP)の話も出てきました。天理よろづ相談所病院のT先生のお話を聞きながら、制度として整っていても、地域でそれを実現するには時間的・経済的ハードルがまだまだ高いと感じました。佐賀ではNPの養成機関も限られており、現実的に導入は難しい。けれども、当院ではその制度に準じたかたちで、看護師さんたちに必要な知識を少しずつ、無理のないペースで学んでもらっていくのも面白いかなと考えています。全部を一気に教えるとパンクしてしまうので、“自前で育てる”、その気持ちだけは強く持っています。強くって言うと皆さん引きそうなのでちょっとだけにしようかな(笑)

リクルートの話もありました。ドクターゴン診療所のH先生が「人が来ないんです」とおっしゃっていたのが印象的で、それはどこの地域も同じなんだなと思いました。地域医療実習が長期化するって噂もありますし、ニーズに併せて医師も開業するのでそのミスマッチは徐々に埋まると期待していますが…。

色々ありましたが、改めて思うのは、「教育って、やっぱり難しいな」ということです。

久々学会に参加して感じた余談ですが、学会は表の情報収集と裏の情報収集があるんですね。まだ表立って言えないグレーなことって学会でも発表されないんです。「ぶっちゃけさ」ってネタが結構良い情報な「ことも」あります。また、他のクリニックの課題(特に自分の将来のイメージが近いクリニック)の課題は今から取り組んでおくことで、良い投資になる「かも」しれません。かもかもネタですね。

アドバンスドエッセンシャルワーカー=ICT使ってね

ICTの活用は確かに必要ですし、骨太の方針にも「アドバンスド・エッセンシャル・ワーカー」の記載がありました。ICTを使いこなせる人材の育成は喫緊の課題で、文書作成、Excel、チャットアプリなども含めて、年齢にかかわらず学ぶ機会が必要だと実感します。

ただそれ以上に、教育の難しさは“学習者の多様性”にある気がします。

目的も、知識量も、モチベーションも違う相手に、同じ教え方はできません。教えることが明確に決まっていれば話は簡単ですが、本当に“その人が欲している学び”って、対話をしないと見えてこない。そこにコストがかかるのは、教育の宿命なのかもしれません。

実は、3年前までは研修医や学生を受け入れる機会も多くありました。その時の教育が効果があったのか、なかったのか、今のところ効果を感じたことはまだありません。でも最近ふと思うのは、「もう一度、教育の現場に戻るとしたら、もっと倫理や生き方をテーマにしてもいいのでは」ということです。

“いい人”って、どんな人なんだろう。
“一緒に働きたい人”って、どんな人?

こういう問いに正解はありませんが、自分が学んできたことの中に、少しでもヒントがあれば、それを次の世代に伝えていきたい気持ちはあります。

最近は、「弟子をとってみたい」と思うこともあります。
といっても、上から教えたいわけではなくて──

一緒に学んでいける後輩がほしいんです。
ちょっと先に学んでいた人間として、効率よく自分を超えていってほしい。
そんな人となら、これからもずっと学び続けていけそうな気がします。

(引用元:漫画「柔道部物語」)

もしこの文章を読んで、何かが引っかかったり、「ちょっと話してみたいな」と思ってくれた方がいれば、ぜひ声をかけてください。すぐに何かが始まるわけではないかもしれませんが、ゆっくり、誠実に、話をしてみたいです。

育て合える仲間が、この地域にもっと増えていきますように。

コメント

人気のブログは以下の通りです

高齢者医療に新たな選択肢:イノラス試飲レビューと活用法

がん患者のメンタルサポートにおける重要な概念:令和6年度 第3回 佐賀県がん診療連携拠点病院緩和ケア症例検討会

ドクターサロン10月号の注目ポイントと当院の取り組み:高齢認知症患者と骨粗鬆症治療に対するアプローチ

第52回佐賀総合診療ケースカンファレンス:知っておきたい外来呼吸器感染症の最新の話題

佐賀県緩和ケア地域連携カンファレンスに参加して(その1) ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の重要性とその進め方

【詳しく知らないと損する、帯状疱疹ワクチンの案内】

インフルエンザ診断後の大切なケアポイント

長引く咳、もしかして百日咳?