家族で話そう、これからの医療とACP 〜高齢者救急の最新提言2024〜


超高齢社会の進行に伴い、家族や医療者が高齢者の急変時に適切な判断を下すことは難しくなっています。特に、救急医療の現場では、本人の意思に沿わない処置が行われることも少なくありません。今回発表された「高齢者救急問題の現状とその対応策についての提言2024」は、こうした問題を解決するために、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の推進や、緊急時の対応マニュアルの整備などを提案しています。

このブログでは、個人的な提言のポイントを解説し、家族がACPを進めたくなるような理由や具体策について掘り下げます。また、施設の現場の悩みも追記しています。

詳細は本文を見ていただくと、より深く理解できるはずです。介護中の家族、研修医、医学生(在宅医療や救急外来に行く前がオススメ)、看護学生、施設管理者、ヘルパー、ケアマネージャーなど広く皆さんにお勧めできる内容になっています。

この提言の秀逸なところは、各コラムが勉強になるところです。DNARや延命治療について軽く紹介していますが、本文のほうが詳細に解説されており勉強になります。


1. ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の推進が必要な理由

高齢者が突然の病気や事故で救急搬送される際、本人の意思が確認できない状況は珍しくありません。こうした場合、家族は「この選択が本当に良かったのか?」と深い後悔や罪悪感に苛まれることが多いのです。

最も悪いケースとしては、

本人:侵襲的な延命治療をしたくないのにされる。

家族:責任が取れない、取りたくないから、延命治療をする。したあとに後悔する。

社会:医療資源が圧迫され、救急部門が疲弊する。

そこで、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要になります。ACPとは、本人が望む医療やケアについて、家族や医療者と繰り返し話し合い、あらかじめ方針を決めておくプロセスです。

家族がACPを進めるべき3つの理由

  1. 後悔を減らすために
    家族が本人の希望を把握していれば、急変時の対応に迷うことが減り、「あのときこうすればよかった」という後悔も少なくなります。特に、DNAR(Do Not Attempt Resuscitation: 心肺蘇生を希望しない指示)のような選択は、家族の心理的負担が大きいため、事前に話し合っておくことが非常に効果的です。急いで決めることは心理的負担がすごく大きいです。

  2. 本人らしい最期を迎えるために
    人生の最終段階で望む医療やケアは、人それぞれです。例えば、「延命治療は望まない」「自宅で最期を迎えたい」などの希望は、ACPで共有されていれば、医療者もそれに沿った対応が可能になります。実際、提言2024でも「延命治療の見直し」を重要なポイントとして挙げています。家族がACPを進めることは、本人が納得できる最期を迎えるための第一歩です。

  3. 緊急時の迅速な対応が可能に
    急変時にACPの話し合いが行われているかどうかで、対応のスムーズさが大きく異なります。例えば、♯7119(緊急度判定システム)を利用して適切な対応ができるのも、事前に本人の意思が共有されている場合です。特に、施設や在宅療養中の高齢者の場合、家族がACPを通じて方針を確認しておけば、救急搬送の要否も落ち着いて判断できます。

提言2024が示すACPのタイミングと工夫 

提言では、誕生日や敬老の日、施設入所時など、ACPを話し合うタイミングが具体的に示されています。また、「人生会議の日(11月30日)」など、話し合いのきっかけを積極的に作ることの重要性が強調されています。これを家族の立場で見れば、「いざというときのための準備」ではなく、「日常的なコミュニケーションの一環」として捉えると進めやすいでしょう。

江口医院では訪問診療開始時に延命治療だけではなく、下記の通り大きな治療方針を目安に治療方針を検討しています。

  • 大きな治療方針を、一分一秒を長く生きるために、辛いリハビリや侵襲的な治療を含めて本人も家族も頑張る
  • 辛いリハビリや侵襲的な処置は原則行わないが、負担のない範疇で治療をする
  • 辛いことや侵襲的な処置は行わず、緩和ケアを主体に治療する

2. 緊急時の対応マニュアルの重要性

高齢者施設では、急変時の対応に大きなばらつきがあります。重症者を多く受け入れている施設は比較的スムーズに対応できるものの、平時の生活は味気なくなりがちです。一方、軽症者が多い施設は平時のケアは手厚いものの、急変への対応は不十分なことが少なくありません。
特に問題なのは、看護師が不在のグループホームです。急変時には特別訪問看護指示書を使って一時的に看護師が入ることは可能ですが、根本的な解決にはなりません。ただし、看護師がいない在宅療養もあるように、「看護師不在」だけが療養場所を決める決定打ではないのです。
この問題に対して、提言2024では緊急時の対応マニュアルの整備が推奨されています。例えば、かかりつけ医や♯7119を活用して適切な対応を取ることや、施設内でのシミュレーション訓練の実施が挙げられています。

実際は、急変時は全例救急搬送とする施設もあります。本人に望まない延命治療を行わないことを優先すると、そういう施設は「延命治療を行わない人は受け入れない」判断をする必要が出てきますね。

3. 各種対応策の概要解説

  • DNAR(心肺蘇生を希望しない指示):
    DNARは、心臓が停止した場合に心肺蘇生を行わないという意思表示です。進行癌や老衰など、回復の見込みがない場合に本人の意思に基づいて指示されます。ACPで事前に話し合うことで、家族や医療者が迷わず対応できます。
    治療を全くしない、「見放す」こととは同義ではありません。緩和ケアは継続しますし、随時可能な治療は行います。

  • 延命治療:
    延命治療とは、回復の見込みがない患者に対して行われる医療行為のことです。提言2024では、「延命治療を望まない」という意思を尊重し、ACPを通じて事前に確認しておく重要性が述べられています。

  • ♯7119(緊急度判定システム):
    ♯7119は、救急車を呼ぶべきか迷ったときに役立つ緊急度判定システムです。特に、かかりつけ医との連携が難しい夜間や休日に効果を発揮します。施設や家族は、このシステムの使い方を理解しておくと良いでしょう。

  • Time-limited trial(タイムリミテッドトライアル):
    一定期間だけ治療を試し、その後に継続か中止かを判断する方法です。患者や家族が負担を感じないか、効果があるかを見極めながら意思決定を行います。ACPで事前にこの選択肢を話し合っておくと、急変時にもスムーズです。

これらの詳細については、提言2024の本文で確認してください。読み応えがある内容になっていますよ。

まとめ

提言2024は、高齢者が「望む最期」を迎えるための具体策を示しています。その核心にあるのは、家族や医療者が適切に対応できるようにするためのACPの推進です。特に、急変時の対応や延命治療の選択は、日頃からの話し合いが不可欠です。
家族の立場としては、「いざというとき困らないために」ではなく、「本人が望む医療を実現するために」という視点でACPを進めることが大切です。

参考文献


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