「血圧130未満って厳しくない?」新しい高血圧の目標を、どう考えればいい?

世の中シルバーウィークですね。一方、江口医院は昨日は定期の訪問診療があり、平川Drに回ってもらいました。明日も少し訪問診療があり、今日も朝からご相談の電話が鳴っております。シルバーウィークどこいった?!

さ、今回は高血圧症のガイドラインが2025年に変わりましたので、そのお話です。…もうあと3ヶ月で2027年ですけど。もう来年のカレンダーや手帳が売られ始めましたね!

血圧を下げるだけじゃない。「下げ続ける」ために一緒に考える高血圧治療

「健康診断で血圧が高いと言われた~」「病院では150なのに、家では130くらいなんです」「血圧の薬を飲んだら、なんとなくフラフラします」高血圧の診療をしていると、こういう相談はよくあります。

以前は「血圧は140を切りましょう」と言われていたのに、最近は「130未満を目指しましょう」と言われる。「え、ちょっと厳しくなってない?」そう思われる方もいると思います。

実際、医療者からしても、患者さんに新しい目標値を伝えるときには、「なぜそこまで下げる必要があるのか」をきちんと説明する必要があります。

今回は、新しい高血圧のガイドラインを踏まえながら、実際の診療では血圧をどう見ているのか、そしてどうすれば無理なく血圧を下げ続けられるのか、イメージしやすいように具体的にお話ししてみましょう!

「130未満」って、そんなに厳しくない?

2025年に新しい高血圧のガイドラインが発表され、治療目標として「130/80mmHg未満」が示されました。これまで「140を切りましょう」と言われていた方からすると、「今まで140でいいと言っていたのに、今度は130?」となるのは当然です。

「薬をたくさん飲ませたいんじゃないの!?」「病院が儲かるから基準を厳しくしているんじゃないの?」……まあ、そこまで疑われると医者としてはちょっと悲しいですが(笑)、そう思う人がいても不思議ではありません。だからこそ、「130未満です」と数字だけを伝えるのではなく、なぜその数字を目標にするのかを患者さんと共有することが大切だと思っています。

一方で、血圧は低ければ低いほどいい、という単純な話でもありません。血圧が下がりすぎれば、ふらつきなどの症状が出ることもあります。特に高齢の方や体調を崩している方では、個々の状態を見ながら調整する必要があります。

つまり、「130未満」という数字はゴールの目安であって、患者さん一人ひとりの状態を無視して、とにかく数字だけを下げればいいという話ではありません。

血圧が140の日と125の日、どちらを信じればいい?

これはよく聞かれる質問です。答えは、「どちらか一回だけを信じる」ということではありません。血圧は一日の中でも変動します。朝と昼でも違いますし、仕事中と休日でも違う。病院に来たときだけ高くなる人もいます。

ですから、できるだけ複数回測って、その人の普段の血圧を見ていきます。

例えば、

130
142
126
137
134

といった数字が並んでいたら、「今日は142だったから高血圧」「今日は126だから正常」という単純な判断ではなく、全体としてどのくらいなのかを見るわけです。そのため、家庭血圧を測れる方には、自宅で測ってもらうことをオススメしています。

もちろん、自宅に血圧計がない方もいます。その場合は病院で測った血圧を積み重ねながら、その人の血圧の傾向を見ていきます。大事なのは、一回の数字に振り回されることではなく、自分の血圧が普段どのくらいなのかを知ることです。

体重計に乗らないと太ってしまうがごとくですよ。見える化!ですね。

「家では130、病院では150」ならどうする?

これも非常によくあります。いわゆる白衣高血圧ですね。病院に来ると緊張して血圧が上がってしまう。「じゃあ家では130だから大丈夫ですね」……と、これだけで終わるわけでもありません。

家庭血圧を確認しながら、その後の血圧がどう変化していくかを見ていきます。白衣高血圧の方でも、家庭血圧を見ていると、全体として少しずつ高くなってくることがあります。だからこそ、「病院で150だった」という一つの数字だけで判断するのではなく、「家ではどうですか?」「朝はどうですか?」「仕事の日と休みの日ではどうですか?」といったところを確認していくわけです。

家庭血圧を重視することは、新しい高血圧ガイドラインでも大きく取り上げられています。

血圧が高いと言われたら、いきなり薬?

では、血圧が高いと言われたら、すぐに薬を飲むのでしょうか。もちろん、血圧の高さによっては薬を飲んだ方がいい場合もあります。例えば血圧が150くらいある方であれば、個人的には「薬を飲んだ方がいい」と考えることが多いです。目標が130未満だとすると、20mmHgほど下げる必要があります。生活習慣を改善することは非常に大切ですが、生活習慣だけで20mmHg下げられる人は、そう多くありません。

だから、「薬は絶対に嫌です。生活習慣だけで頑張ります」というよりも、「薬も使いながら、生活習慣も少しずつ変えていく」という方が現実的なことも多いと思います。

ただし、血圧が高いからといって、毎回すべてを一度に確認して、全部を完璧に変えなければいけないわけではありません。家庭血圧はどうか。二次性高血圧の可能性はないか。タバコはどうか。運動不足はないか。食事はどうか。睡眠はどうか。

患者さんによって、確認する順番も違います。「今日は家庭血圧を確認しましょう」「次回は生活習慣について少し聞いてみましょう」というように、一つずつ進めることもあります。

「減塩してください」だけでは、なかなか減塩できない

生活習慣改善の代表が減塩です。でも、「塩分を減らしてくださいね」と言われただけで、次の日から食塩摂取量が減る人は、なかなかいません。そもそも、「何を減らせばいいの?」となりますよね。

血圧は数字として見えます。一方で、今日自分が何グラムの塩分を食べたのかは、なかなか分かりません。最近では尿中ナトリウムから食塩摂取量を推定する方法もありますが、日常診療ですべての患者さんに簡単に行えるものではありません。

ですから、実際の診療ではもっと具体的に、「普段何を食べていますか?」と聞くことになります。例えば、塩分の多い食事が多ければ、「これを毎日食べていますか?」「こちらに変える方法もありますよ」といった話をする。

逆に、減塩食品であっても、糖分や脂肪分が多いものがあります。健康食品だから何でもいい、というわけでもありません。

本当は栄養士さんに一緒に入ってもらえると、もっとできることがあると思っています。小さなクリニックでは、栄養士さんにどのくらい相談のニーズがあるのか、という問題もありますけどね(バリューは必ずあると信じています)。でも個人的には、患者さんの「実際の食事」を聞いて、具体的な代替案を一緒に考えることには価値があると思っています。

「毎日30分歩いてください」が続かないなら

運動も同じです。「毎日30分歩いてください」と言われても、「仕事が忙しいんです」「そんな時間ありません」となりますよね。

そういう場合には、まずハードルを下げます。30分ではなく、まず5分。買い物に行くなら、店内を少し多めに歩く。通勤があるなら、通勤の中に歩く時間を組み込む。つまり、「運動する時間を新しく作る」というより、今の生活の中に運動を入れてしまうわけです。

そして、これは個人的な経験ですが、運動は「後でやろう」と思うと、結局やらなくなりやすいんですよね。仕事が終わってからでは疲れている。夕食を食べたら眠くなる。テレビを見たら、そのまま動きたくなくなる。だったら、朝一番に済ませてしまう。「今日は忙しいから後で」ではなく、「最初に終わらせてしまう」という発想です。

人によって合う方法は違います。だからこそ、「30分歩きなさい」だけではなく、「あなたの生活なら、どうすれば続けられそうですか?」と考えることが大切だと思っています。

食事も運動も睡眠も、全部完璧にする必要はありません

もちろん、食事も運動も体重も睡眠も、全部改善できれば理想的です。でも、全部を完璧にやろうとすると、かなり大変です。食事を完璧にしてから運動。運動が完璧になったら体重。その次に睡眠。……となると、いつまで経っても次に進めません。

個人的には、一つずつ、少しずつ。くらいがちょうどいいと思っています。「今月は運動を少し増やしてみる」「次は食事を一つ変えてみる」そんな小さな変化を積み重ねるほうが効果的と考えています。ガイドラインには書いてないのでエビデンスないですけど。

生活習慣改善は、知識の問題だけではありません。「知っているけど、できない」をどうやって「これならできそう」に変えていくか。そこが難しいところです。

「血圧を下げましょう」だけでは、医療者側の仕事も足りない

ここは、医療者側にも少し厳しく考えた方がいいところだと思っています。血圧が下がらないとき、「患者さんが運動しないから」「塩分を減らさないから」「薬をちゃんと飲まないから」と、患者さん側の問題にしてしまうことがあります。

でも、「血圧を下げましょう」と言っただけで、具体的な方法を伝えていなかったとしたら、それは医療者側にも問題があります。新しいガイドラインでも、生活習慣改善について「何をするか」だけでなく、「どう実行するか」が重視されています。

これは医師だけの仕事でもありません。看護師さんが患者さんの生活習慣について相談に乗れる。必要なら栄養士さんにも入ってもらう。そうやって、医師だけですべてを抱え込まず、スタッフ全体で患者さんを支える。小さなクリニックだからこそ、こういうところは工夫していきたいと思っています。

例えば、こんな患者さんだったら

例えば、50歳代の会社員の方。健康診断で血圧150/90と言われました。病院で測っても150くらい。ところが、自宅では135くらいです。「病院だけ高いんですよ。だから薬はいらないですよね?」と相談されたとします。

ここで、「病院では150だから薬です」と簡単に決めるのではなく、まず家庭血圧をしばらく確認してもらう。朝はどうなのか。仕事の日はどうなのか。休日はどうなのか。食事はどうなのか。運動はどうなのか。タバコはどうなのか。睡眠はどうなのか。

必要であれば、二次性高血圧についても考える。そして、家庭血圧を見ながら治療方針を考える。もし薬が必要になったとしても、「薬を飲んだから生活習慣改善は必要ありません」ではありません。運動不足があるなら、まず5分歩いてみる。食事で塩分が多そうなら、よく食べているものを一つ変えてみる。睡眠に問題があるなら、そこを確認してみる。

そうやって、いくつかの方法を組み合わせていきます。だって、食事も運動も、睡眠も独立して健康づくりに必要なものですからね。関連しているけど、独立もしているってイメージです。

「薬を飲みたくない」という気持ちも大切にしたい

もちろん、「薬を飲みたくない」という患者さんもいます。その場合、私はまず薬を飲まないことによって、どんなリスクがあるのかを説明します。高血圧は症状がないことが多い。だから、「何も症状がないから大丈夫」と思いやすい。でも、脳卒中や心不全など、いったん発症すると生活に大きな影響を残す可能性のある病気につながることがあります。

症状が出てから治療を始めれば、それで元通りになるとは限りません。だからこそ、症状がない段階で血圧を管理する意味があります。そのリスクを理解したうえで、それでも薬を飲まないという選択をされるのであれば、無理に飲ませることはできません。

大切なのは、「薬を飲め」ではなく、「薬を飲まないという選択には、こういうリスクがあります。それを知ったうえで、どうしますか?」と一緒に考えることだと思っています。医学的にはShared dicision makingってやつですね。

昔なら「飲まない奴は来るな!」って怒られそうですけどね。

血圧は「下がったら終わり」ではありません

最後に、一番お伝えしたいことがあります。血圧は、一度下がったらそれで終わりではありません。年齢とともに変化します。一般的には上がります。仕事や生活環境が変われば変化することもあります。体重が変わることもあります。薬の副作用が出ることもあります。体調を崩して食事が取れなくなることもあります。

だから、血圧を測って、確認して、必要なら薬を調整する。生活習慣も、無理なく続けられるように少しずつ調整する。そしてまた血圧を確認する。その繰り返しです。

血圧手帳を毎日つけている方は、それだけでもかなり頑張っています。血圧は数字で見えるからこそ、目標を立てることができます。「今日は高かった」「今日は低かった」と一喜一憂するのではなく、「最近はこのくらいで安定しているな」と、自分の血圧を知っていく。

血圧管理から健康づくりに、疾患予防に繋がっていくと感じていますね。

(引用:マンガ「ハイキュー」)
健康は、俺が守ってやるぜ!と言いたいところですが、守るのはあなたです!医師は監督ってよりコーチに近いでしょうか。

江口医院が大切にしていること

私たちが目指しているのは、単純に「血圧を下げる」ことだけではありません。血圧だけを見ていると、「薬を飲みましょう」「塩分を減らしましょう」「運動しましょう」という話になりがちです。

でも、その人には仕事があります。家庭があります。好きな食事があります。睡眠の問題があるかもしれません。タバコを吸っているかもしれません。運動する時間がないかもしれません。そういった生活全体を見ながら、「じゃあ、どこからなら変えられそうですか?」と一緒に考えていく。

そして、血圧が下がったら終わりではなく、下げ続けられる状態をつくる。そのために、血圧を測ってもらい、話を聞いて、薬の効果や副作用を確認して、必要なら治療を調整する。高血圧の治療は、医師が一方的に指示するものではなく、患者さんと一緒に続けていくものだと思っています。

「130未満」と聞いて、「ちょっと厳しくない?」と思われた方もいるかもしれません。まずは、自分の血圧が普段どのくらいなのか。そこから見える化してみてもいいと思います。

一緒に確認しながら、無理なく続けられる方法を探していきましょう。

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