医療者が黙っていると思っていませんか?ペイシェントハラスメントと信頼のコスト


それ、本当に「普通のクレーム」ですか?

まー、日々診療しているとですね、いわゆる「クレーム」と呼ばれるものに触れる機会っていうのは、やっぱり少なくないです。で、多くの方は「自分はそんなことしていない」と思っているんですけど、ここが少しズレているポイントかなと思っています。

実はですね、「普通のクレーム」と思っている行為が、法律上はハラスメントに該当する可能性がある、ということはあまり知られていません。

じゃあその違いは何かというと、個人的には結構シンプルで、「感情のコントロールができているかどうか」この一点に集約されることが多いです。

医療現場で起きている「具体的な行動」

例えばですね、伝えたい内容以上に大声になってしまうとか、あるいは、対応が難しいと説明されても帰らないとか、長時間居続けるとか。こういった行動は、内容の正しさとは別に、ハラスメントと判断される可能性が高くなります。

あと最近感じるのは、「医療」ではなくて「サービス」を求めているケースですね。例えば、「この薬を出してほしい」と強く要求されることがあります。ただ、保険診療というのは、医師の診断のもとに必要な医療を提供する仕組みなので、患者さんが内容を決めるものではないんですね。

ここが、一般的なサービス業とは大きく違うところです。

「自分は関係ないかな」と思われた方もいるかもしれませんが、実際に現場で問題になる行為って、そこまで特別なものではないんですよね。

例えば、正当な理由がはっきりしないまま過度な要求を繰り返すとか、長時間その場に居続ける、あるいは電話で長く拘束する、といった行為。これも内容だけ見ると「よくあること」と感じるかもしれませんが、業務に支障が出るレベルになると、ハラスメントと判断される可能性が出てきます。

例えば…「抗生剤を処方されるまでは帰らない」「不要な検査を強要する」のもペイシェントハラスメントになります。また、同じ内容のクレームを何度も繰り返す、複数の窓口に同時に訴える、といった“リピート型”も現場ではかなり負担になります。

それから、やはり多いのが言葉の問題です。大きな声での威圧的な発言や、人格を否定するような言葉、執拗な責め立て。これらは内容の正しさとは関係なく、受け手に強いストレスを与えます。さらに、「対応しなければSNSに書く」「口コミで評価を下げる」といった形での圧力や、特別扱いを求める行為も見られます。

一部では、脅迫的な言動や、業務スペースへの立ち入り、あるいはインターネット上での誹謗中傷といった、法律に抵触する可能性のあるケースも実際に確認されています。

ここで重要なのは、「多くは悪気なく行われている」という点です。ただ、その結果として、現場のスタッフが疲弊し、結果的に医療の質に影響が出る可能性がある。だからこそ、「どこまでが許されるのか」を事前に知っておくこと自体が、トラブルの予防、つまりペイシェントハラスメントの抑止につながると考えています。

実際に何が起きているか

これ、あまり表に出ない話なんですけど、医療事務や看護師の離職理由の中に、ハラスメントが含まれていることはまあまああります。1回だけであれば耐えられる人もいます。ただ、それが何回も続くと、やっぱり難しくなってくるんですね。

で、もう一つ重要なのが、スタッフが萎縮するとどうなるかです。例えば、過剰に防御的になります。説明が必要以上にリスク寄りになったり、検査が増えたり、紹介が増えたり。

結果として、患者さん自身の医療の質が下がる可能性があります。

そもそも人間には表面に出にくい悪意って奴があると思うんですよ。飲食店でも、店員をこき下ろして、出てきた食事に保証できますか?にこにこしながら、悪意のある行動が取れる人もいます。一時的な感情の高ぶりでそんなリスクは自分は取れないなぁと思っています。

クレームとハラスメントの違い

もう一度整理すると、クレームとハラスメントの違いは「内容」ではなく「伝え方」です。体調が悪いと、感情のコントロールが難しいことは理解できます。ただ、それがそのまま許されるかというと、それは別の問題です。

極端な話になりますけど、強い感情が生まれることと、それをどう表現するかは分けて考える必要があります。

なぜ医療はトラブルが起きやすいのか

これは構造的な問題も大きいです。医療って、まず不確実性が高いですし、情報量も患者さんと医療者で差があります。さらに、日本の医療は診療報酬で価格が決まっているので、時間をかけた説明をしたくても、それに対する対価を自由に設定できません。

あと、個別性が高い。同じ病気でも、対応が人によって変わる。

こういった条件が重なって、どうしてもトラブルが起きやすい仕事なんですね。

例えばこんなケース

例えばですね、「この薬をどうしても出してほしい」と強く言われたケースがありました。制度上は難しいので説明をするんですが、納得されない。で、感情的になってしまって、長時間その場を離れない。

こういった場合、最初はクレームだったものが、途中からハラスメントに変わっていく可能性があります。この境界線は、実は連続的なんですよね。

では、どう伝えればいいのか

ここで誤解してほしくないのは、「何も言うな」という話ではないです。むしろ、困っていることは伝えていただいた方がいいです。

ただ、その時に

  • 感情を少し切り分ける
  • 要求ではなく相談の形にする
この2つを意識してもらえると、かなり変わります。

あと、待ち時間などはシステムの問題であることも多いので、個人に向けた怒りに変換しない、という視点も大事かなと思います。

私たちが大切にしていること

医療って、結局「人」が提供するものです。機械がやっているわけではないので、人を大事にしないと、いい医療は提供できません。なので、私たちはスタッフを守ることを大事にしています。これは結果的に、患者さんの利益につながると考えています。

一方で、信頼関係がどうしても築けない場合には、お互いのために距離を取る、という判断もあり得ます。悪質なケースについては記録として残りますし、積み重なれば診療の制限につながることもあります。

信頼にはコストがある

少しだけ考え方の話をすると、人は「失うこと」を強く評価する性質があります。なので、一度失った信頼を取り戻すには、少なく見積もっても2倍くらいのコストがかかると考えた方がいいです。

これは患者さん側にも、医療者側にも同じことが言えます。

(引用:漫画 ベイビーステップ)
感情はコントロールするもの。刺激と反応の間には、自分がコントロールできるスキマがあるんです(7つの週間も是非読んでみてください)。

お互いにとって「いい医療」のために

あの、我慢してほしいという話ではないんですね。正当な指摘は、むしろありがたいです。それが医療の改善につながることも多いので。ただ、その伝え方によっては、結果的に自分にとって不利になることもある、というのは知っておいてほしいです。

医療者と患者さんは、上下関係ではなくて、対等な関係です。その前提の中で、お互いにとって納得できる医療ができるといいなと思っています。

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