気づき、共有、そして予防へ――チームで支える在宅医療の現場から
在宅医療では、明確な正解が見えにくい中で、小さな変化や気づきを積み重ねていくことが求められます。
私たち江口医院のチームは、日々の診療に加えて、振り返りや対話を通じて、気づきの質を高め、連携の力を育てていくプロセスそのものを大切にしています。
今回のケースカンファレンスでは、心不全という見えにくい病態にどう向き合い、どのように変化に気づき、次にどう活かしていくかをチームで真摯に話し合いました。その中で、“あのとき”の出来事が、“次の一手”を考えるきっかけとなり、チームとしての視点が広がることを改めて実感しました。
私たちは、「うまくいった・いかなかった」ではなく、そこから何を学び、どう次に活かすかを共有し合うことで、在宅チームとして少しずつ前に進んでいます。
本記事が、他の医療・ケアに携わる方々にとっても、新たな視点のヒントとなれば幸いです。
■「むくみがない」から安心?在宅医療に潜む盲点
このケースでは、患者さんにいつもより元気がない、倦怠感といった変化がありながらも、明確な「むくみ」や「体重増加」がなく、初動対応が遅れました。
結果として、心不全の診断に至るまで時間を要してしまったのです。
心不全には、左心不全(肺うっ血や呼吸苦)と右心不全(浮腫や頸静脈怒張)という2つの側面があります。しかし、在宅では、レントゲンをすぐに使えるとは限らず、「症状がなければ見逃される」という構造的な盲点が存在します。
だからこそ、「いつもできていた動作が最近できない」「なんとなく疲れやすそう」といった微細な変化に目を向けることが、医療チームにとって不可欠なのです。
尚、仮説として肺エコーが使用できないかを考えています。下大静脈は右心不全に至らないと見つかりませんよね。
■認知症の陰に隠れる“気づき”の難しさ
在宅患者さんの多くは認知症も合併しており、体調の変化を自分から訴えることは困難です。
なんとなく息遣いが悪い。いつもより元気がない(認知症のBPSDの加療を行っているとよりわかりにくくなります)などの気づきは、日常の観察を続けてくださる施設スタッフの存在によって初めて可能になります。
ご本人の小さな変化を察知する力は、私たち医療チームにとってかけがえのない情報源です。
■プロフェッショナル連携の可能性
POS(Problem Oriented System)を意識したカルテ記録の有用性を再認識しました。病歴や治療の背景やチェックすべき項目が一目で追えるような工夫を重ねています。これにより、「何を見て、何を伝えるべきか」が整理され、現場での判断や報告もスムーズになっていくと感じています。
また、患者ごとに「重点観察ポイント」(例:呼吸数、体重、浮腫)を明示し、施設側にも共有することで、観察の精度が高まる可能性を実感しました。
■“入所後半年間”というハイリスク期間
複数のケースを振り返る中で、仮説ですが施設入所後6ヶ月以内は心不全発症のリスクが高いのではないか?と考えています。施設はそもそも食事がある程度管理されており、偏った食事にはなりにくいです。通常は心不全は自宅よりコントロールされていることが多いです。
しかし、入所という生活環境の変化に加え、感染、脱水、睡眠リズムの乱れなど、些細なストレスが誘因となり得るとも考えられます。入所後の6ヶ月間を「要観察期間」として位置づけ、施設との連携強化やフォローアップ頻度の調整を行う必要性を考えました。特に症状が多い、管理すべき疾患が多い患者さんや体調変化が見られたタイミングでは、よりこまめに訪問診療を予定します。
■ケースカンファレンスの力:仮説と学びの共有
当院では、医師・看護師・リハビリ職・事務スタッフに加え、今回は大学研修医も交えてケースカンファレンスを実施しました。特徴は「フラットに話せること」、そして仮説と次の一手を出し合える場であること。
今回も、「どうやって早期に発見できるか」「どういう疾患管理を行うべきか」「施設スタッフとどのようにコミュニケーションを取るか」を真剣に議論しました。時にはスタッフの心理的な迷いにも触れながら、「安心して声をあげられる環境づくり」が医療の質につながると再確認しています。
■在宅医療は“気づきの連携”
在宅医療は、医師の目だけでは支えられません。
ご本人にもっとも近い距離で接する施設スタッフの皆さんの観察眼と、そこに医療の視点を重ねるチームの連携こそが、最大の力になります。
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「むくみがなくても、日常動作の変化を見逃さない」
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「疑わしい病態があれば、そのチェックポイントをチームで共有する」
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「普段と違う、の感覚を言語化して、伝えてもらえる信頼関係を築く」
この積み重ねこそが、早期発見、早期治療への最良の備えだと信じています。
最後に
江口医院では、施設スタッフ・訪問看護・リハビリ・ケアマネージャーとの連携を通じて、「気づき」を「対応」へとつなげる医療を大切にしています。
療養中の疾患の状況の変化、ご相談があれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。
コミュニケーションには公式LINEも使用していますが、MCS(Medical care station)も検討中です。
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