慢性腎臓病(CKD)と向き合う地域医療 


2025年5月15日、マリターレ創世佐賀にて行われた「imagineプロジェクト」に参加いたしました。何故「imagine」…と質問してみると「今、腎(臓)を考える」というダジャレとのことです(笑)

日本イーライリリーの協賛のもと開催された今回の講演会は、「慢性腎臓病の個別最適化治療 ― 地域レベルのシステムデザイン」がテーマ。講師は、琉球大学 血液浄化療法部の診療教授・部長である古波蔵健太郎先生です。

■ CKDの早期発見が未来を変える

慢性腎臓病(CKD)は、初期には自覚症状がほとんどなく、気づかないまま進行してしまう病気です。特に糖尿病や高血圧といった生活習慣病のある方は、腎機能に負担がかかりやすく、注意が必要です。

古波蔵先生は講演の中で、

  • どうやってハイリスクな患者さんをピックアップするのか
  • 忙しい患者さんだけではなく、忙しいかかりつけ医、専門医の3者が効率的に病気を評価し、病状を共有し、治療に結びつけられるか
をシステム的にどのようにデザインすべきかを強調されました。

また、「eGFR(推算糸球体濾過量)」や「尿蛋白」のチェックを継続的に行うことの重要性を共有しました。血液や尿のシンプルな検査から、腎臓の状態を早期に見抜くことができるという事実は、私たちかかりつけ医にとって非常に大きな手がかりです。

■ 忙しい外来診療でもできる工夫とは?

診療現場では時間との戦いが常ですが、そんな中でも「患者さんに伝えるべきことを、いかに効率よく届けるか」が問われています。講演では、CKDの標準治療をわかりやすく文書にまとめて郵送するという取り組みが紹介されました。これにより、患者さんは自宅で内容を何度も見返すことができ、家族と相談するきっかけにもなります。

eGFR表を使った視覚的な説明も効果的とのこと。患者さん自身が「自分の腎臓が今どのステージにあるのか」を理解しやすくなり、治療の納得度が高まります。

■ SGLT2阻害薬など治療の選択肢も進化

近年では、SGLT2阻害薬(例:ジャディアンス)など、腎臓保護効果のある薬剤が登場し、糖尿病性腎症やCKDの進行抑制に期待が集まっています。血糖の管理だけでなく、腎機能の維持にも寄与するという点で、かかりつけ医と専門医が協働して、患者さんごとに最適な薬を選択していく重要性が増しています。

もちろん、薬剤の副作用や費用についても個別に検討が必要です。医師との丁寧な対話を通じて、患者さんに合った方法を一緒に考えていくことが何よりも大切です。

当院では、日本内科学会雑誌で紹介された論文のシュミレーションを使用しつつ、治療介入時期によっては15年も透析導入を延長できることを患者さんと共有しつつ治療を行うかどうかを決めています。

■ 地域医療の連携をどう進めるか

講演後には、かかりつけ医と佐賀大学や佐賀県医療センター好生館の医師も交えたグループ討議が行われました。講演会でグループワークが行われるのは初めてかもしれません。多くの医師が共通して悩みを抱えていたのは、「効率的な、適正な検査頻度」や「時間が限られる中で、どうやってCKDの早期介入を行うか」「年齢やADL、PSと透析導入後の予後」という悩みです。

同じ地域の医師たちが、それぞれの工夫を共有し合える場は非常に貴重で、「みんな同じ壁にぶつかっている」と知ることで、勇気をもらえるような時間でした。

■ 当院としての今後の取り組み

当クリニックでも、糖尿病や高血圧症をお持ちの方には、定期的な尿検査やeGFRの確認をおすすめしています。腎機能の悪化は早めにキャッチすることで、その後の人生に大きな違いをもたらします。

診療情報の管理には「RS-base」というファイリングソフトを導入しており、効率的な情報整理と共有に役立っています。以下の図がサンプルですが、透析導入の目安となるeGFR 10を切る時期を推定してくれる便利な機能がついています。ただし、当院で採血したものしか統計的処理が出来ません。

また、必要に応じて腎臓内科や泌尿器科と連携し、専門的な治療へつなぐ体制も整えております。私たちかかりつけ医にできることは限られているかもしれませんが、早期発見・早期介入という「入り口」を守ることは、大きな意味を持ちます。

今後も地域に根ざした医療機関として、慢性腎臓病(CKD)をはじめとする生活習慣病と向き合い、患者さん一人ひとりにとって最適な医療を提供できるよう努めてまいります。

「ちょっと最近トイレが近いな」「むくみが気になる」そんな小さな気づきこそ、早期発見のサインかもしれません。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

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