医療アクセス、満足度の回復──それでも残る“行きづらさ”に思うこと

 

最近、ある患者さんから「◯◯病院は待ちが長いのよ」とぼやかれました。まあ、それを言うなら「当院が空いてるのは、人気がないからですかね…?」と、冗談のひとつも言いたくなるところです(笑)

日本医療政策機構が2024年末に実施した最新の世論調査が出ていました。「日本の医療制度に満足している」と答えた人が7割近くにのぼりました。これは前年(2023年)より改善している結果です。コロナ禍の混乱としてはタイムラグが大きい気もします。自分が受診する機会が少ないので、原因の推定もなかなか難しいですね。

その裏で私が目を留めたのは、「医療機関へのアクセス」や「待ち時間」に関する不満が根強く残っているという点です。


アクセスの壁──物理的な距離、そして心の距離

調査では、「かかりつけ医まで15分以上かかる」と回答した人が約6割。
とくに高齢の方にとって、これは無視できない距離です。

佐賀のような地方都市でも、高齢者の移動はだんだん難しくなっています。
タクシーの数は減り(神野タクシーさんも閉業)、免許返納後の移動手段としてバスだけが頼みの綱ですが、徐々に便数も減っています。幸い、当院は佐賀駅バスセンターがすぐそばにありますが、それでも「通うのがつらくなった」と感じる方もいます。

そんなときには、必要に応じて訪問診療も行っています。大変ですが、長年培った信頼関係を活かせることを嬉しくも思います。


受診のハードル:「医療費」「予約の取りにくさ」「待ち時間」

また、調査では「受診控え」の理由として、「医療費」や「予約の取りにくさ」「待ち時間の長さ」が挙げられていました。

医療費で意識していることは、コスパを意識して薬剤選択することも多いです。また、リスクコミュニケーションを行ったうえで、検査数をギリギリまで絞って検査を行うこともあります。

予約は、敏先生が居てくれること、平川先生が来てくれたおかげで比較的取りやすくなりました。訪問診療と外来診療を交互に行っていますので、どちらかが院内にいます。連休明けで混み合うこともありますが、予約制を活かした予習とWeb問診などを有効活用しています。

待ち時間で対策で行っているのは、予約制、シュライバー育成(70歳代)、予習ですかね。クレジットカードによる後払いシステムも検討しましたが、他のシステムとの連携が難しそうです。


診察時間は“短くて濃い”を目指す

「待ち時間が長い」ことに対して、「診療時間をもっと長く」という声も聞きますが、私は少し違うアプローチをしています。

当院では、Web問診や事前予約によって、患者さんの情報をあらかじめ把握できるようにしています。そうすることで、診療中は最も必要な対話に集中できるようにしています。

「短いけれど、質の高い診察を。」結果として、診察そのものは比較的短時間になることもありますが、それは他の患者さんの待ち時間を減らすことにもつながり、地域全体の医療アクセスを守ることにもなります。

短くても内容が伝わる診療を。――そんな意識で日々工夫を重ねています。


DXは、高齢社会を支える鍵になるか

世論調査では、医療情報の2次利用について6割の人が前向きな姿勢を示しました。2次利用については高齢化社会が進む中で、寿命を延長するデータは出にくいと推察しています。一方、年代別の副作用発現率のようなビッグデータ分析は、今後ますます重要になるかもしれません。たとえば「この薬、80代では副作用の確率が高い」など、リアルタイムで共有されれば、現場は格段に安全になります。


最後に──数字の裏にある、一人ひとりの“声”

世論調査の数字を見ながら、私はつい、日々診ている患者さんの顔を思い浮かべてしまいます。医療費を気にしている患者さんもいますし、毎回予約を取らずに来られる患者さんもいます(取ってくださいね!)。待てない患者さんもいます(配慮はしますが、順番は守ります)。

「病院に行くほどじゃないけど、なんとなく不安」
「どこに相談すればいいのか分からない」
そんな声の受け皿になることが、私たちの仕事の原点です。

大病院のような立派な設備はなくても、会話と信頼と、地域の中で積み重ねてきた情報・口コミやネットワークがあります。それを活かして、今日もまた“誰かの最初の相談相手”になれたらと思っています。

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