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医療と介護の連携でQOLを守る:ハスカップ・レポートハスカップ・レポート2023-2025を参考に

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市民福祉情報オフィス・ハスカップが発行する『 ハスカップ・レポート2023-2025 』は、介護保険制度の利用に関する疑問や不安に応える一冊です。2006年から電話相談を担当してきた経験をもとに、典型的な相談内容をQ&A形式でわかりやすく解説しています。制度の使いづらさについて、社会保障審議会の資料を活用しながら説明しています。全88ページで小項目に分かれていますので比較的読みやすいですよ。 以下のような方にお勧めです。 突然の介護が必要になり戸惑う方々 在宅医療で介護分野と関わる医師 クリニックで介護の相談を受ける看護師 ケアマネージャーを始める人、ケアマネージャーに興味がある人 入院をきっかけにADL(日常生活動作)が低下する高齢患者は多く、その回復には医療と介護の連携が不可欠です。特に、介護保険制度を適切に活用することで、患者のQOL(生活の質)を向上させることが可能になります。本記事では、ケアマネージャーの役割や介護保険の課題について考察し、医療と介護の協力がいかに重要かを解説します。 ケアマネージャーの役割とその大変さ ケアマネージャーは、患者や家族と相談しながら、適切な介護サービスを調整する役割を担っています。しかし、このレポートが指摘するように介護保険の仕組みが複雑であるため、ケアマネージャーの負担は非常に大きいのだろうと予測されます。 例えば、特別養護老人ホーム(特養)への入所は、要介護3以上が原則ですが、特例として要介護1や2でも入所が認められる場合があります。このような特例を適用するには多くの手続きが必要であり、ケアマネージャーの尽力が不可欠です。 また、ホームヘルプサービス(訪問介護)においても、同居家族がいる場合の利用条件が厳しく設定されており、家族の介護負担が過大になりやすい問題があります。こうした制度の複雑さが、介護の現場をさらに難しくしているのでしょう。 医療と介護の連携が必要な場面 当クリニックでは、患者のADL低下が見られた際に、医療と介護を連携させることを重視しています。特に以下のようなケースでは、介護保険を案内しながら、ケアマネージャーや訪問看護と連携することが重要です。 入院後のADL低下 :肺炎などで入院後、身体機能が低下し、自宅での生活が難しくなる。 訪問看護の導入 :がん患者のADL低下が進行し...

がん患者のメンタルサポートにおける重要な概念:令和6年度 第3回 佐賀県がん診療連携拠点病院緩和ケア症例検討会

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がん患者や終末期医療におけるメンタルサポートは、患者本人だけでなく、家族や支援者にとっても重要な課題です。現在、がんの在宅医療に関わっている先生方は内科や外科の医師が多く、精神科の医師は少なく感じています。一方、緩和ケア病棟には精神科の医師の配置基準があるので羨ましいです。 そんな中、佐賀大学医学部附属病院 精神神経科 助教 松島 淳 先生のメンタルケアに対する講演を聞く機会があったので、その中から個人的なトピック、キーワードを紹介します。本記事では、メンタルケアに関連する重要な概念を紹介し、実践的な視点を提供します。 1. デモラリゼーションとは デモラリゼーション(Demoralization)とは、深い無力感や希望の喪失、目的の喪失を指し、がん患者において特に顕著に見られる心理的状態です。うつ病とは異なり、持続的な抑うつではなく「どうしてよいかわからない」という感覚が特徴です。適切なメンタルケアや支援により改善が期待できます。 2. PTSDの自然回復経過と幸福感の設定値理論 がん患者は診断や治療の過程で強いストレスを経験し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することがあります。しかし、PTSDには自然回復の経過があり、多くの患者は時間とともに症状が軽減します。お話では1年で9割は自然回復するが1割が回復しきれず、支援が必要とのことでした。 公認心理師になる前に、ストレスについていろんな書籍を読み漁ったことがあります。その中の「幸福感の設定値理論」を思い出しました。幸福感の設定値理論によると、人の幸福感は一時的なストレスや困難によって低下しても、時間が経てば元のレベルに戻る傾向があります(この回復のスピードをレジリエンスと言っても良いのかもしれません)。逆に嬉しいこと(宝くじに当たったなど)も元のレベルに戻ります。この考え方を理解し、患者が前向きな気持ちを取り戻す支援が重要です。 ちなみに、設定値が戻りにくいイベントが、「通勤時間」と「介護」だったと記憶しています。 3. レジリエンス(回復力)の重要性 レジリエンス(Resilience)とは、困難な状況に直面しても適応し、回復する力を指します。がん患者においては、病気の受容や治療への適応を促す要素として重要です。家族や医療従事者が患者のレジリエンスを高めるためには、肯定的な言葉かけや小さ...

産業医を頼むとどうなるの?企業が知っておくべきポイント:2025/02/08 産業医講習会から

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みなさん、産業医ってどんな役割があるかご存知ですか?「法律で決まっているから」と仕方なく検討している企業も多いかもしれません。でも実は、産業医がいることで会社の「健康」が守られるだけでなく、働く人たちのやる気や働きやすさもグッと良くなるんです。今回は、産業医を頼む企業が知っておくべきポイントを、わかりやすくお話しします。 産業医の役割とは?アドバイザーだと考えよう まず、産業医は 一般的には 「怖い先生」ではありません!私も(表面的には)優しい先生と言われていますよ!よく「怒られそう」「厳しい指導をされそう」と思われがちですが、実際は経営者や働く人たちの相談相手です。分かりやすく言えば、サッカーの試合で監督が選手に作戦を相談するようなもの。産業医は「こうしたほうがいいですよ」とアドバイスをくれる存在です。 例えば、「社員が仕事中に腰が痛いと言っています」という相談があれば、「椅子の状態や作業の状態を確認して、◯◯な椅子を導入しましょう」などの提案をしてくれます。もちろん、法律違反がある場合には指摘する必要がありますが、それ以外では経営者と一緒に最適な方法を考えていくパートナーです。 産業医を頼むとどんなことをしてくれるの? 産業医の仕事は大きく分けて次のようなものがあります。 衛生委員会の参加 健康相談、健康診断のサポート 健康診断の結果をもとに、「この社員はこうしたほうがいい」と具体的なアドバイスをしてくれます。例えば、血圧が高い社員に対して「塩分を控える食生活を提案してみては?」といった助言をすることもあります。 また、健康講座も行っている先生もいました。「感染対策について」や「ヒートショックとは」などの講座を行ない日頃から、予防的に健康に気を使っているようです。 ストレスチェックの実施 社員のストレス状態を把握するためのチェックも大事な仕事。例えば、「学校で算数のテストをするように、社員の心の健康を調べる」と考えてください。結果を分析して「チームの連携が取れていないようなので、改善策を考えましょう」といった提案をしてくれます。 職場の巡視(会社の見回り) 会社の中を見回り、「ここはもう少し安全にしたほうがいいですね」というポイントを教えてくれます。例えば、工場で「この作業をするときは手袋をしたほうが安全ですよ」というアドバイスがあるかもしれませ...

好生館シンポジウム 2025: 地域医療構想と佐賀県の課題

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2025年2月7日、佐賀市医師会立看護専門学校にて開催された好生館シンポジウムに参加しました。地域医療構想や在宅医療の課題について考えるきっかけとなった印象深い講演がいくつかありましたので、以下に感想をまとめます。 松田真也教授の講演: 地域医療構造と未来の展望 産業医科大学の公衆衛生学教室 松田晋哉教授による講演は、地域医療構想の現状と課題について詳しく解説されました。松田先生のお話はいつも面白く聞かせてもらっています。最初にお聞きしたのは10年くらい前のプライマリケア学会だったと思います。今回は厚生労働省の資料を基にした話が中心でしたが、松田教授独自の視点や分析が大変興味深い内容でした。(厚生労働省の資料は概ね確認していますので😊) 極端にまとめると、以下の2点です。好生館という救急病院に勤められている先生方はどのように感じられたのでしょうか? 医療、介護が連携し、高齢者救急を支える病院の重要性 大病院の僻地へのサポートの重要性 特に印象的だったのは、地域版のラピッドレスポンスシステム(RRS)の提案です。これは、院内で急変時に対応する横断的チームを地域医療に応用するもので、高齢者の急変対応や一次調整機能の強化を目指しています。ただし、診療報酬制度の現状ではビジネスモデルの確立が難しく、私的には課題が多いと思います。先日記事にしたPOCTなども重要になりますね。 また、急性期医療の役割が減少し、慢性期医療や予防医療が重視される中で、栄養ケアや生活機能リハビリの重要性が強調されました。この分野での医療と介護の連携が鍵となります。 佐賀県における医療介護提供体制の現状 講演では、佐賀県内の地域差や課題について具体的なデータが共有されました。 訪問診療・訪問看護の不足 : 特に南部地域での訪問診療や看護の提供が少ないことが指摘されました。 サービス付き高齢者住宅の地域差 : 東部や北部では全国平均の2倍以上あるのに対し、中部では60%程度という大きな格差が見られます。 訪問介護の低さ : 佐賀県全体で全国平均の25-50%の水準です。診療報酬改定による影響も大きいとされています。もうすぐハスカップ・レポートの記事も作りますが、訪問介護はもう少し報われて良い分野だと思うのですが…。 こうした状況の中で、松田教授は各地域の課題に応じた体制づくりが...

治療抵抗性の苦痛と緩和ケアにおける鎮静の役割:がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2023年版 第3版

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久々に緩和ケア領域で良本に出会いました。なんとPDFは無料で見れます。(コピペ、印刷は不可) 日本緩和医療学会の皆さんに感謝です。 緩和ケアに携わる医師ならば1冊持っていて損はありません。臨床医だけではなく、緩和ケア病棟を研修する前の医学生、研修医にもお勧めですし、緩和ケア病棟看護師、訪問看護師、施設看護師にもお勧めの一冊です。 がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2023年版 第3版 https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/sedation_2023/sedation2023.pdf 冊子を購入したいならば Amazon にも売っています。 この本を読みつつ、個人的な重要なポイントを経験とともにご紹介いたします。 緩和ケアにおいて、患者さんの生活の質(QOL)を高めることが最優先されます。しかし、病状が進行する中で、一部の患者さんは治療抵抗性の苦痛に直面することがあります。このような場合、従来の治療方法では十分な苦痛の軽減が得られず、苦痛緩和のための鎮静(以下、緩和的鎮静)が選択肢として検討されることがあります。本記事では、治療抵抗性の苦痛の概念、緩和的鎮静の意義、その適用に際する倫理的・実践的側面について解説します。 治療抵抗性の苦痛とは 治療抵抗性の苦痛とは、十分な医学的介入や治療を行ったにもかかわらず、患者が依然として経験する強い苦痛を指します。この苦痛は、身体的な痛みだけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな側面を含むことがあります。たとえば、末期がん患者さんにおいて、  身体的苦痛 : 持続する激しい痛みや呼吸困難 精神的苦痛 : 強い不安や抑うつ 社会的苦痛 : 孤独感や家族関係の困難 スピリチュアルペイン : 生きる意味の喪失や死への恐れ これらが複雑に絡み合い、患者さんの生活の質を著しく低下させることがあります。身体的苦痛のみは比較的薬剤で対応がしやすく感じます。最も対応が難しいと感じるのはスピリチュアルペインです。また、精神的苦痛はスピリチュアルペインと混ざって表現されることが多々あります。 この冊子の良いポイントは鎮静にこだわらず、緩和ケア全般の知識を学べることです。スピリチュアルペインに対する会話の表現方法なども例示されており、分かりやすく作られています。(...

発熱や感冒時に受ける内科検査の流れとは?診断を確実にする最新情報 日本内科学会雑誌 2023/11月号を参考に

発熱や感冒(風邪)の症状が続いた場合、多くの方は「病院で何が行われるのか」と気になることでしょう。本記事では、診断を確実にするための内科検査の流れと、最新の検査技術について分かりやすく解説します。検査の重要性を理解することで、適切な治療を受ける一助となれば幸いです。 1. なぜ内科検査が重要なのか?診断の確実性を高める理由 病気の診断は、患者の症状や病歴からある程度予測を立てることが可能ですが、これだけでは不十分なことも多いです。検査を行うことで、以下のようなメリットがあります。 診断を確実にする 病歴や症状だけでは判断が難しい場合でも、検査結果を基に正確な診断が可能になります。 適切な治療を開始できる 例えば、細菌感染かウイルス感染かを見極めることで、抗生剤の不要な使用を避けられます。 無駄な治療を減らす 患者に不要な負担をかけず、治療の効率化が図れます。 尚、診断にあたっては、できる限りCentor scoreやAlvadoro scoreなどのスコアリングシステムを使用しています。このことにより診断の変動を少なくすることができます。診断学で言うとシステム1を補強する役割があります。 個人的には MD CALC というサイトをよく使用しています。英語ですが、使用感は良好です。Androidアプリもありますので、出先で勤務する場合も使いやすいですよ。 使用頻度が高いのは、Wells' Criteria for DVT、Alvarado Score for Acute Appendicitis、CHADS₂ Score for Atrial Fibrillation Stroke Risk、TIMI Risk Score for STEMI、anadian CT Head Injury/Trauma Ruleなどです。 2. 一次検査と二次検査の違いとは?簡単に解説 内科で行う検査は、大きく「一次検査」と「二次検査」に分けられます。 一次検査(スクリーニング検査)  簡単な血液検査やPOCT検査(後述)、尿検査を行い、全身状態や感染症の有無を確認します。  - 例 :白血球数の測定(細菌感染症では増加、ウイルス感染症では減少することが多い)。 二次検査(精密検査) 一次検査の結果を踏まえて、詳細な診断を行うための...

心臓病を防ぐ新制度「第2期心血管疾患対策基本計画」とは

日本では心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患が死亡原因の上位を占めています。これを防ぐために、政府は「心血管疾患対策基本計画」を策定し、第2期(2023年度〜2027年度)に移行しました。この新しい制度を理解し、患者さんや医療・介護従事者が活用できるよう、わかりやすく解説します。 1. 心血管疾患対策基本計画とは? 心血管疾患対策基本計画 とは、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を予防し、発症後の重症化を防ぐための国の方針です。高血圧や糖尿病などのリスクを早期発見し、医療機関との連携を強化することで、患者さんの健康を守ることを目的としています。 第1期と第2期の違い:進化したポイントとは? 「心血管疾患対策基本計画」は、2018年度から2022年度にかけて実施された 第1期 と、2023年度から2027年度にかけて進行中の 第2期 の2つのフェーズに分かれています。 第1期では、「心血管疾患の予防と医療提供体制の整備」が中心でした。具体的には、健康診断の受診率向上、心血管疾患の早期発見、そして医療機関との連携強化に重点が置かれていました。しかし、実際の現場では、 健診を受けても適切なフォローがなされないケースや、診断後の生活改善が進まない問題 が浮き彫りになりました。 こうした課題を踏まえ、第2期では、「ただ病気を防ぐだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)を向上させること」が新たな目標に加えられました。特に、以下のような変化が見られます。 対象疾患の拡大 第1期では、高血圧・糖尿病・脂質異常症などが主な対象でしたが、第2期では 慢性腎臓病(CKD)やフレイル(加齢による虚弱状態)も視野に 入れられました。これにより、高齢者や慢性疾患を持つ患者さんへの対応がより包括的になりました。 データ活用の進化 第1期では、主に医療機関ごとのデータ管理が行われていましたが、第2期では AIやビッグデータを活用し、個々の患者に最適化された医療を提供 する方向へとシフトしました。例えば、電子カルテや健診データをもとに、医師が患者ごとのリスクを予測し、より適切な治療方針を立てられるようになっています。 ただし、このデータを入力するのは誰か、確認するのは誰か、まとめるのは誰か、責任を持つのは誰かなど、訴訟リスクを含めまだまだ十分な議論が行われていないと感じていま...