介護保険制度と地域連携を学ぶ院内勉強会レポート 2025年8月8日 江口医院 院内勉強会より

1. はじめに ― 医療と介護の接点

「医療も大切だけど、介護は生活直結であり、QOLを上げるもの。医療があっても、介護がなければ人としての尊厳がない。」

これは、今回の院内勉強会で共有した当院と言うより私の思いです。点滴や酸素があっても、ヒゲぼうぼうで、髪がベタベタで、肌はカサカサ、オムツは変えられず臭く、部屋も汚い。医療が不要とはいいませんが、介護というより基本的なケアって本当に大切なものです。

医療は病気を治すための手段ですが、介護は暮らしそのものを支える土台です。病状が安定していても、生活の場で支えがなければ、日々の尊厳や安心は保てません。だからこそ、医療と介護の両輪で支える姿勢が大切だと考えています。

2025年8月8日、江口医院では「介護保険」をテーマに院内勉強会を行いました。
背景には、外来や在宅で患者さんと接する中で、「介護保険の仕組みがわかりにくい」という声が多かったことがあります。制度や申請の流れ、医療保険との使い分け、そして現場での連携の実際を整理することが目的です。

事前のアンケート調査を元にFAQを作成しました。各ホームページやサイトを複数確認し、確度を高めつつ資料を作成しました。その一部を共有したいと思います。

(引用:漫画「GIANT KILLING」)


2. 介護保険の基本構造とポイント

介護保険制度は、介護が必要になった高齢者やその家族を、社会全体で支えるための公的保険制度です。
財源は40歳以上の国民から徴収される介護保険料と税金がほぼ半分ずつ。運営主体(保険者)は市区町村です。

サービス利用には、まず市区町村に「要介護認定」を申請します。認定区分は大きく分けて「要支援1・2」と「要介護1〜5」。

  • 要介護認定を受けるとケアマネジャーがつき、ケアプランを作成しながら必要なサービスを調整します。

  • 要支援の場合は、地域包括支援センターが窓口となり、予防ケアや軽度の支援を中心に行います。

この違いは、支援の目的が「生活の維持」か「自立支援・予防」かにあります。現場で混同されやすい部分ですが、制度設計上は明確に分かれています。


3. 地域包括支援センターの役割

地域包括支援センターは、市区町村ごとに設置された高齢者の総合相談窓口です。法律上の正式名称は全国共通ですが、自治体によっては「高齢者支援センター」や「おたっしゃ本舗」など、独自の名称を使う場合もあります。佐賀ではおたっしゃ本舗ですけど県外に行くと違うんですよ。

主な役割は以下の通りです。

  • 要支援者の予防ケアプラン作成とサービス調整

  • 高齢者の虐待防止、権利擁護

  • 医療・介護・福祉・行政の連携窓口

  • 高齢者や家族からの相談受付

佐賀市にお住まいで介護に関する不安や困りごとがある場合は、まずおたっしゃ本舗=地域包括支援センターに相談することをおすすめします。窓口では、制度の説明から申請手続き、事業所との調整まで幅広くサポートしてくれます。


4. 介護保険と医療保険の使い分け

介護保険と医療保険は、原則として同じ時間帯には使えません。
例えば、デイサービス利用中に訪問診療を受けた場合、その時間帯はどちらか一方しか給付対象にならないのです。全国共通のルールですが、現場では患者さんやご家族にとって混乱の原因になりやすいポイントです。

解決策のひとつは「時間を区切る」ことです。
例えば、午前10時までに訪問診療を終え、10時からデイサービスを利用する。このように調整すれば、両方のサービスを同日に利用できます。

こうしたスケジュール調整はケアマネジャーが中心になって行いますが、医療側からも事前に訪問日や時間を共有しておくことが重要です。


5. サービス利用の流れと申請ステップ

介護保険を使うには、まず「要介護認定」の申請が必要です。

  1. 市区町村の窓口に申請(本人や家族、ケアマネ経由でも可能)

  2. 調査員による訪問調査(約2週間後くらい)

  3. 主治医意見書の作成(クリニックに持ってきてもらいます。時々郵送でもきますね。)

  4. 認定結果通知(概ね30日以内)

結果が出たら、ケアマネジャーを選び、ケアプランを作成します。佐賀市では地域包括支援センターが窓口となり、事業所やサービスとのマッチングもサポートしてくれます。


6. ケアマネとの連携を大切にする理由

在宅医療の現場では、ケアマネジャーとの連携が質の高い支援に直結します。当院では特に次の2点を重視しています。

  • 訪問予定・デイ利用日の事前共有

  • Medical care station(メディカルケアステーション)による情報共有

この仕組みによって、急なスケジュール変更やサービス重複のリスクを減らすことができます。
勤務医時代には、こうした細やかな連携の必要性を実感する機会は少なかったものです。現場に出てみて初めて、「これは医療だけでは完結しない世界だ」と強く感じました。

そりゃそうで、入院中は食事も入浴も医療が提供するのですが、在宅医療になると介護保険での提供になるからですね。


7. 現場で感じる課題と制度の持続性

「こんなに高齢者が増えて、介護保険はどうせ破綻するんじゃないですか?(保険料払いたくない)」という質問や意見もありました。

制度は続くと考えられていますが、要介護度の判定は年々厳格化しています。その結果、サービス利用のハードルが上がり、質や量が変動する可能性はあります。

介護人材の不足や事業所の経営環境の変化も影響します。訪問介護員の確保が難しく、サービス内容の縮小や待機が発生することも珍しくありません。

しかし、介護保険ができた理由が、「急速な高齢化と核家族化の進行により、介護を家族だけで担うことが困難になったためです 。また、それまでの老人医療制度では、介護が必要な高齢者の長期入院が増え(社会的入院)、医療費を圧迫していました 。こうした課題を解決し、介護を社会全体で支える仕組みを構築するために、医療とは別に介護保険制度が創設されました 。」であり、今後の少子高齢化が進行する時に社会で支える仕組みはより必要とされるからです。


8. 勉強会で印象的だった声

参加者の一人がこう言いました。
「勤務医時代は盲点でした、正直。」
病院の中では医療職が全てを担いますが、在宅に出ると介護職や行政との協働なしには成り立ちません。このギャップを埋めるには、互いの立場や役割を理解し合うことが欠かせません。


9. よくある質問(Q&A)

  1. 介護保険はどうやって申請するの?
     市区町村の窓口または地域包括支援センターで申請可能。家族やケアマネ経由でも可。

  2. 介護保険と医療保険、どっちを使えばいいの?
     生活支援は介護保険優先、治療は医療保険優先が原則。

  3. 訪問診療とデイサービスは同時に使える?
     同時間帯は不可。時間を区切れば同日利用可能。

  4. 要介護認定は何を基準に決まる?
     心身の状態や日常生活動作(ADL)、認知機能などの調査結果と主治医意見書を総合判定。

  5. 最初にどこに相談すればいい?
     地域包括支援センターへ。佐賀市在住なら市内各所に設置されている。


10. まとめ

医療と介護は、別々の制度でありながら、生活の現場では密接に結びついています。当院は、地域のケアマネジャーや介護事業所との連携を大切にし、患者さんとご家族の生活の質を高めるために日々学び続けています。

「医療も大切だけど、介護は生活直結であり、QOLを上げるもの。医療があっても、介護がなければ人としての尊厳がない。」

この思いを胸に、これからも佐賀市での在宅医療・訪問診療を通じて、地域に根ざした支援を続けていきまっす!

(余談)そういう意味ではQOLが上がっていない介護サービスを見ると、……(-_-; ってなりますね。

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