好生館シンポジウム 2025: 地域医療構想と佐賀県の課題


2025年2月7日、佐賀市医師会立看護専門学校にて開催された好生館シンポジウムに参加しました。地域医療構想や在宅医療の課題について考えるきっかけとなった印象深い講演がいくつかありましたので、以下に感想をまとめます。

松田真也教授の講演: 地域医療構造と未来の展望

産業医科大学の公衆衛生学教室 松田晋哉教授による講演は、地域医療構想の現状と課題について詳しく解説されました。松田先生のお話はいつも面白く聞かせてもらっています。最初にお聞きしたのは10年くらい前のプライマリケア学会だったと思います。今回は厚生労働省の資料を基にした話が中心でしたが、松田教授独自の視点や分析が大変興味深い内容でした。(厚生労働省の資料は概ね確認していますので😊)

極端にまとめると、以下の2点です。好生館という救急病院に勤められている先生方はどのように感じられたのでしょうか?

  • 医療、介護が連携し、高齢者救急を支える病院の重要性
  • 大病院の僻地へのサポートの重要性

特に印象的だったのは、地域版のラピッドレスポンスシステム(RRS)の提案です。これは、院内で急変時に対応する横断的チームを地域医療に応用するもので、高齢者の急変対応や一次調整機能の強化を目指しています。ただし、診療報酬制度の現状ではビジネスモデルの確立が難しく、私的には課題が多いと思います。先日記事にしたPOCTなども重要になりますね。

また、急性期医療の役割が減少し、慢性期医療や予防医療が重視される中で、栄養ケアや生活機能リハビリの重要性が強調されました。この分野での医療と介護の連携が鍵となります。

佐賀県における医療介護提供体制の現状

講演では、佐賀県内の地域差や課題について具体的なデータが共有されました。

  • 訪問診療・訪問看護の不足: 特に南部地域での訪問診療や看護の提供が少ないことが指摘されました。
  • サービス付き高齢者住宅の地域差: 東部や北部では全国平均の2倍以上あるのに対し、中部では60%程度という大きな格差が見られます。
  • 訪問介護の低さ: 佐賀県全体で全国平均の25-50%の水準です。診療報酬改定による影響も大きいとされています。もうすぐハスカップ・レポートの記事も作りますが、訪問介護はもう少し報われて良い分野だと思うのですが…。

こうした状況の中で、松田教授は各地域の課題に応じた体制づくりが必要であると強調されていました。

訪問看護ステーションを法人で持つことも検討しています。

クリニック併設の訪問看護ステーションは、医療と看護の連携がスムーズに行える点が最大の強みですよね。病院はカルテを通してすべての情報が一元管理されています。在宅医療は情報が拡散するのが弱みです。診療所の医師が訪問看護師と密に連携することで、患者の状態を迅速かつ適切に把握し、緊急時や状態変化への対応が可能になります。また、在宅医療を行う患者に対して一貫した医療サービスを提供できるため、患者や家族の信頼感が高まります。さらに、同一施設内での情報共有により、業務効率が向上し、患者ケアの質を高めることができます。また、大きな仕事だけではなく、小さな仕事をフレキシブルに、フットワーク軽くしてくれることが期待できます。

一方で、医療機関の管理負担が増大することは課題です。訪問看護ステーションの運営には専任の管理者や看護師の確保が必要であり、人材不足の現状では負担が大きくなり得ます。また、クリニックの診療時間外に対応が求められるケースも必ずあるでしょう。スタッフの働き方改革やシフト管理がより複雑になる可能性もあります。また、訪問看護に特化した運営ノウハウは圧倒的に不足しています。

病院機能分化と稼働率の課題

病院の機能分化や稼働率についての話も印象的でした。松田教授によれば、健全な病院経営には85%以上の病床稼働率が必要とされる中で、佐賀県の平均は76.3%と厳しい状況です。一部の病院では稼働率が50%以下となっており、特に新型コロナウイルス感染症流行期のデータではありますが、持続可能な運営への課題が浮き彫りになりました。

また、大病院が僻地医療を支援しすることについて言及されました。大病院が中小病院を支援して、中小病院がさらに僻地の病院やクリニックを支援する「屋根瓦式」の医師派遣の有用性が改めて感じました。この仕組みは医師のスキルのマッチングや1人の移動コストの現象から効果的である思っています。

当院の関わりと今後の方向性

当院では在宅医療を通じて地域医療構想に貢献していますが、高齢化が進む中で、慢性期医療や予防医療の強化が急務です。具体的には、

  • 高齢者向けの生活機能リハビリの推進
  • 栄養ケアや口腔ケアの強化
  • 医療と介護のICT連携の導入

これらの施策をさらに深めていく必要があります。また、今回の講演で得た知見をスタッフ教育や地域連携の強化に役立てていきたいと考えています。

おわりに

好生館シンポジウム2025は、地域医療構想や高齢者医療の未来について考える貴重な機会となりました。松田真也教授の講演を通じて、地域ごとの課題を的確に把握し、適切な対応策を講じることの重要性を再認識しました。当院でも、地域住民や医療関係者、ケアマネージャーの皆様と連携しながら、地域医療の発展に寄与していきたいと思います。

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