心臓病を防ぐ新制度「第2期心血管疾患対策基本計画」とは

日本では心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患が死亡原因の上位を占めています。これを防ぐために、政府は「心血管疾患対策基本計画」を策定し、第2期(2023年度〜2027年度)に移行しました。この新しい制度を理解し、患者さんや医療・介護従事者が活用できるよう、わかりやすく解説します。


1. 心血管疾患対策基本計画とは?

心血管疾患対策基本計画とは、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を予防し、発症後の重症化を防ぐための国の方針です。高血圧や糖尿病などのリスクを早期発見し、医療機関との連携を強化することで、患者さんの健康を守ることを目的としています。

第1期と第2期の違い:進化したポイントとは?

「心血管疾患対策基本計画」は、2018年度から2022年度にかけて実施された第1期と、2023年度から2027年度にかけて進行中の第2期の2つのフェーズに分かれています。

第1期では、「心血管疾患の予防と医療提供体制の整備」が中心でした。具体的には、健康診断の受診率向上、心血管疾患の早期発見、そして医療機関との連携強化に重点が置かれていました。しかし、実際の現場では、健診を受けても適切なフォローがなされないケースや、診断後の生活改善が進まない問題が浮き彫りになりました。

こうした課題を踏まえ、第2期では、「ただ病気を防ぐだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)を向上させること」が新たな目標に加えられました。特に、以下のような変化が見られます。

  1. 対象疾患の拡大
    第1期では、高血圧・糖尿病・脂質異常症などが主な対象でしたが、第2期では慢性腎臓病(CKD)やフレイル(加齢による虚弱状態)も視野に入れられました。これにより、高齢者や慢性疾患を持つ患者さんへの対応がより包括的になりました。

  2. データ活用の進化
    第1期では、主に医療機関ごとのデータ管理が行われていましたが、第2期ではAIやビッグデータを活用し、個々の患者に最適化された医療を提供する方向へとシフトしました。例えば、電子カルテや健診データをもとに、医師が患者ごとのリスクを予測し、より適切な治療方針を立てられるようになっています。
    ただし、このデータを入力するのは誰か、確認するのは誰か、まとめるのは誰か、責任を持つのは誰かなど、訴訟リスクを含めまだまだ十分な議論が行われていないと感じています。

  3. 予防・重症化防止の強化
    第1期では、健康診断の受診を推奨することが主な施策でした。しかし、第2期では、健診後のフォローアップが強化され、治療につなげる仕組みが整えられました。また、心血管疾患を発症した後のリハビリテーションや、訪問看護・在宅医療の連携も重視されています。

  4. ケアマネジャー・訪問看護師の役割の拡大
    第1期では、医療機関内での対策が中心でしたが、第2期では在宅でのケアの充実が求められるようになりました。そのため、ケアマネジャーや訪問看護師が患者さんの生活習慣改善を支援する機会が増え、医療と介護の連携がより密接になっています。

このように、第2期ではより実効性のある対策が導入され、心血管疾患対策が単なる予防から「QOLの向上」を含む包括的なものへと進化しました。


2. 制度の具体的な内容

① 予防強化:リスクを早期発見

第2期では、生活習慣病の発症を防ぐために、健診後のフォローアップを徹底することが求められています。

  • 特定健診の結果をもとに、医療機関と連携
    • 特定健診の受診率が低いので、キーポイントになるのは企業健診でしょうか
  • 高血圧や糖尿病の管理が不十分な場合、専門医と連携して治療を最適化

👉 行動ポイント: 健診を受けたら結果を放置せず、医師に相談しましょう!

② 二次予防:発症後の重症化を防ぐ

心血管疾患を発症した患者さんに対し、

  • 早期のリハビリテーションの導入
  • 地域の医療機関・訪問看護との連携強化
  • 薬物療法の適正化

などが強化されています。

👉 行動ポイント: 心臓病の治療中の方は、主治医や看護師、栄養士と定期的に相談を!

③ ケアマネジャー・訪問看護師の役割

  • ケアマネジャーは、患者さんの状態に応じた適切な医療・介護サービスを提案
    • 特に心不全末期の患者さんは労作時の倦怠感が強くなります。
    • 労作時の倦怠感は薬物療法ではコントロールしにくいので、環境調整が主体となります。
  • 訪問看護師は、在宅での血圧、体重管理や服薬指導をサポート

👉 行動ポイント: 医療従事者との連携を深め、患者さんの生活の質を向上させましょう!


3. 現場の声:医師・訪問看護師・ケアマネジャーのインタビュー

クリニックでの変化

有病率を見ると血圧の上昇は年齢的な問題が一番大きいと考えています。生活習慣も大切ではありますが、適切な薬物療法は欠かせません。アドヒアランスを高めるために、時間とコストを意識して対応しています。

在宅ケアの重要性

クリニカルシナリオ3と呼ばれる心不全末期の患者さんをご紹介頂くことが多くなりました。低血圧と倦怠感が特徴です。血圧低下に伴う内服調整と電解質のフォローがポイントに感じます。また、難しいのは口渇に対する緩和などですね。ガムが効果的という論文をどこかで見ましたが…。倦怠感のためには適切に医療用麻薬(オピオイド)を使用しています。

ケアマネジャーとの連携のポイント

労作時の倦怠感のために環境調整は欠かせません。トイレまでの動線、低血圧時の入浴、ベッドの導入などを患者さんのニーズだけではなく、先を読みつつ対応が求められます。しかし、介護保険も余っていないのが現実です…。


4. まとめ:「制度を活用し、健康寿命を延ばそう!」

「心血管疾患対策基本計画 第2期」は、単なる病気予防ではなく、患者さん一人ひとりの生活の質を高めることを目的とした制度です。

患者さんへ:健診結果を放置せず、医師と相談!

ケアマネジャーさん・訪問看護師さんへ:医療機関との連携を強化し、患者さんの生活を支える!

👉 ご不明な点があれば、当クリニックまでお気軽にご相談ください!

参考文献:

厚生労働省 循環器病対策推進基本計画


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