猫に小判 風邪に抗生剤


外来をしていると、正直なところ「抗生剤、出ますか?」と聞かれる場面は少なくありません。まぁ聞かれて全然嫌ではないのですが…。抗生剤が必要がない可能性が高いことをきっちり説明します。

最初にご案内したいのは「抗微生物薬適正使用の手引き第三版@厚生労働省」です。医療関係者(特に研修医の先生方)にもおすすめです。患者さんも読めないわけではありませんので、抗生剤要るのかな?と思ったときには見てみると良いですよ~。

例えば、咳が良くならない!ってときの抗生剤投与の目安は以下の通りで書かれています。

早く治したい。不安を消したい。仕事や学校を休めない。って気持ちは分かります。自分も仕事休めないですもの。
ただ、その一方で、僕自身はいつも少し立ち止まります。

これ、本当に今、抗生剤が必要な場面なのか。それとも「薬があると安心する」という期待に、医療が引きずられていないか。

今日は、抗生剤を「出す・出さない」という単純な話ではなく、なぜ悩むのか、どこで判断しているのか、その思考の中身をできるだけ解説してみましょう!

結論から言うと、抗生剤を使わない判断のほうが、実はずっと考えています。

まず前提として。
抗生剤は、細菌感染症には非常に強力な武器です。これは事実です。
肺炎、尿路感染、胆嚢炎、皮膚感染症。これらは抗生剤なしでは治りません。とは、言えません。肺炎はウイルス性が多いとされています。軽症の膀胱炎は自然治癒します。皮膚もしっかりと排膿されていていれば治ります。小学生の時に膝擦りむいて薬飲んだことなんてなかったですよね?

まぁ、でも肺炎、尿路感染、胆嚢炎、皮膚感染症の多くは抗生剤が必要なときがあります。

一方で、いわゆる「かぜ症状」の多くはウイルス感染です。ウイルスには抗生剤は効きません。これは教科書的な話で、たぶん多くの方が聞いたことがあると思います。

ただ、現実の診療はそんなに単純じゃない。

たとえば、
・熱はある
・のども痛い
・咳も出る
・体もだるい

この時点で「ウイルスです」「細菌です」と白黒つけることは、実はかなり難しい(医師20年目ですが…)。

だからこそ、ガイドラインというものがあります。

溶連菌を疑ったときのCentorスコアや各種感染症ガイドラインは、
「この条件がそろったら抗生剤を考える」
「この段階では経過観察でよい」
そういう“考え方の地図”を示してくれます。

ただし、これは「自動販売機」ではありません。点数が出たから即処方、という話ではない。

年齢、基礎疾患、生活背景。
一人暮らしか、介護を受けているか。
食事が取れているか、動けているか。

特に高齢者診療や在宅医療をやっていると、「同じ感染症名でも、意味がまったく変わる」場面を日常的に見ます。

若い人の場合、多少こじらせても回復力があります。一方、高齢者では、経過観察でも体力を削るし、抗生剤の副作用が体力を削ることもあるのよね。

抗生剤の副作用というと、下痢くらい、と思われがちですが、実際には、食欲低下、全身倦怠感、腸内環境の乱れ、せん妄の悪化など、生活レベルで効いてくる影響が少なくありません。

ここで、少し誤解されやすい話をします。

「抗生剤を出さない=様子を見ましょう」

この言葉、正直、医療用語として不親切だと思っています。様子を見るって、何を、どこまで、いつまで見るのか。僕が言いたい「経過観察」は、放置ではありません。むしろ、かなり具体的です。

たとえば、
・発熱が3日以上続く
・食欲が明らかに落ちてきた
・水分が取れなくなった
・動くのがつらくなってきた

こういう全身状態の変化が出てきたら、話は変わります。その時点で抗生剤が必要になることは、十分あります。

逆に言えば、今はその段階ではない、という判断も、ちゃんと根拠があります。

よく「耐性菌が怖いから抗生剤を出さないんですよね」と言われます。

それも、もちろん理由の一つです。

耐性菌とは、抗生剤が効かなくなった細菌のことです。抗生剤を使うたびに、完全に死ななかった細菌が生き残り、だんだん薬に強くなっていく。ただ、僕自身は、「未来の耐性菌」よりも、「今この人に何が起きるか」も重視しています。

抗生剤を使えば、確かに「何かやった感」は出ます。

患者さんも安心します。医師側も、短時間で診療を終えられる。でも実はこれ、医療者側の弱さでもあります。

夕方、混雑している外来。連休前。患者さんが「これ以上来られない」と言う場面。夕方ほど抗生剤処方率が上がる、という論文もあります(ちなみに手術も成績が良い時間帯があります)。人間ですから、判断は環境に影響される。

だからこそ、「抗生剤を出さない」という判断は、信頼関係がないと成立しません。

説明に時間がかかる。不安に付き合う必要がある。「何かあったら、また来ていい」と言える関係性が必要です。抗生剤を使わない医療は、実は、考えていないとできない医療です。

抗生剤を求めないでください、という話ではありません。必要なときは、ちゃーーーんと使います。ただ、「今は使わない」という判断にも、理由があること。「経過観察」には、具体的な意味があること。これを知ってもらえたら、それで十分です。

理想論ではありますが抗生剤は、使うべきときに、正しく使う。それが、あなた自身の体を守ることにもつながります。

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