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6月, 2025の投稿を表示しています

じわーりと血圧が上がってきたあなたへ(トクホじゃダメダメ)──安心して続けられる治療と生活サポートを

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「健康診断で血圧が高いと言われた」「最近、だんだん血圧が上がってきている」と感じている40〜60歳の方に向けて、高血圧症の基礎知識と当クリニックでの治療・サポートのポイントをお伝えします。 (引用:漫画「GIANT KILLING」) 1. そもそも高血圧って何? なぜ放っておけないの? 高血圧は、血管にかかる圧力が高い状態が続く病気です。健康診断で「血圧が高い」と言われたことがある方は多いでしょう。男性では40〜50歳頃から、女性では閉経後の50〜60歳頃から上がりやすくなるのが統計的にも知られています。 (引用:高血圧症ガイドライン2019) 「自覚症状がないから放置してもいいのでは?」と思うかもしれませんが、実は高血圧は脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎硬化症などの重篤な病気のリスクを大きく上げる、怖い病気なのです。特に、これらの病気になると元の生活に戻ることが難しくなってしまいます。 高血圧は「沈黙の殺人者」と呼ばれ、症状が出にくいものの、確実に体に負担をかけています。だからこそ、しっかりと治療と生活習慣の改善を行うことが非常に重要です。 私自身も内服していますよ。自己判断ですが、睡眠時無呼吸症候群と遺伝的素因もあって30歳代から内服しています。慣れてしまうと飲むのは面倒でもないですね。最近ではサプリを飲むこともありますので内服自体のハードルは低いです。(食事運動療法から逃げているとも言える…) 2. 高血圧のリスク、タバコより怖い? 皆さんご存じの通り、タバコは健康に悪いですが、実は高血圧はタバコよりも死亡リスクが高いと言われています。血管に負担をかける点で共通し、脳卒中や心臓病の原因になります。 当クリニックでは、このようなデータやリスクを患者さんに分かりやすく示し、内服治療や生活習慣改善のモチベーションにつなげています。 (引用:高血圧症ガイドライン2019) 皆さん驚かれるのですが、意外と高いのは運動不足なんですよね。散歩しましょう! 3. 生活習慣の改善でどれくらい血圧が下がるの? 「薬は飲みたくない」「まずは生活習慣を見直したい」という方は多いです。実際、生活習慣の改善で血圧は下がります。 減塩 :日本人の平均食塩摂取量は約10〜11gですが、これを半分以下の4.6gに減らすと、収縮期血圧(上の血圧)が約5mmHg、拡張期血圧...

完璧じゃなくて大丈夫——糖尿病と上手につき合うために知っておきたいこと

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糖尿病と診断されて不安な方へ。失敗してもまたやり直せる。医師としての経験と生活者としての実感から、完璧でなくても続けられる糖尿病とのつき合い方をお伝えします。 「糖尿病と診断されたけど、何から始めたらいいの?」 これは、外来で本当によくいただく質問です。 糖尿病と向き合うって、言葉では簡単ですが実際はとても難しいです。 生活を変えなきゃいけないと言われても、何から手をつけたらいいのか分からない。 正直、私自身も「医者として知っていても、完璧にできているか」と言われたら、自信はありません。正しい知識があっても出来ないことって沢山ありますよね。 ただ、たくさんの患者さんと一緒に歩んできた経験から言えるのは—— 「完璧じゃなくてもいい」「失敗を糧にして続ける」ということです。 今回は、糖尿病と診断されたばかりの方に向けて、医療の現場で実際に話している内容を、少し丁寧にお届けします。 ■ 糖尿病の「怖さ」は、じわじわ進むこと 「血糖値が高いって、そんなに悪いことなんですか?」 そう思う方もいるかもしれません。 糖尿病が怖いのは、 血管にダメージを与え、動脈硬化を進めること です。 血管の老化が早まり、心筋梗塞や脳梗塞といった大病につながっていきます。 糖尿病を放置した場合、 寿命が10年ほど縮まる というデータもあります。 70歳でぽっくり亡くなる、というイメージを持つ方もいますが、実際には 60歳ごろに心筋梗塞を発症して、それから10年の闘病生活 を経て、70歳で亡くなる。そんな流れが多いのです。 しかも、糖尿病は初期には痛みも不調もない人もいます。(糖尿病性神経障害で疼痛やしびれに苦しまれている方も思ったより多いです。) だからこそ「今は大丈夫」と思ってしまい、対策が遅れる。 この“静かな進行性”が、糖尿病の厄介なところです。 ■ よくあるパターン:「糖尿病に良いものを食べれば改善する」という誤解 よくあるパターンで、「テレビで見た〇〇が糖尿病にいい」と聞いて、それを一生懸命取り入れる方がいます。 サプリや特定の食材で血糖を下げようとする。でも、効果が出た方はごく一部です。 糖尿病の改善には、「何を食べるか」よりも「 どれだけ、どう食べるか 」が大事。 甘いものをゼロにする必要はありません。 食べすぎないこと、カロ...

横文字ばっかり!トランスプロフェッショナル!?アドバンスド・エッセンシャルワーカー!? 第7回 在宅医療連合学会 in 長崎 参加報告(後編)

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〜体験記のような、ちょっとした決意表明のような〜 学会の報告、と言いつつも、今回は“体験記”に近いかもしれません。 トランスプロフェッショナル=飛車が龍に成る 在宅医療の現場から見たとき、今回の学会で刺さった話題は、RPAやICTなどのワクワク系話題も数多くありましたが、その一方、静かに胸がざわつくような話題もありました。キーワードは「教育」──特に“ トランスプロフェッショナル ”という考え方に、改めて大きな意味を感じています。 たとえば、医師が看護師の仕事を少し担い、看護師がリハビリや介護に関わる。リハ職が訪問で看護的視点を持つ。こうした垣根の越境は、大病院ではなかなか体感しにくいものかもしれませんが、地域ではすでに“日常”になりつつあります。人口減少が進む今、役割の壁を越えていくことの大切さを、現場が先に感じ始めているのかもしれません。 実際、自分は採血もしますし、膀胱留置カテーテルを入れたりもします。たまに、ですがエンゼルケアをしたりもします。それって病院では基本は看護師さんの仕事ですよね。 教育の場にも、その風が吹いているようでした。講義に「トランスプロフェッショナル」の視点を組み込み始めている学校もあるようで、いずれ地域での連携や働き方が“教育の標準”になる日も近いのかもしれません。 若い人だけではなく、中年の専門家も「自分の仕事じゃねぇ!」「新しい仕事なんて無理!」なんて言わずにちょっとだけチャレンジしてみませんか?飛車が龍に成るみたいじゃないですか!かっこいい…! それにしてもトランスプロフェッショナル…って分かりにくですよね。日本語で言えば、横断的知識を備えた専門家。矛盾した言葉に感じますね。Generalist with Subspecialty…またも英語…表現困難。受け売りですが、西洋の学問は細分化、専門化するほど専門家して評価されます。一方、東洋の学問はいかに統合出来るかも問われるとのことです。そういった意味では東洋の学問の一部を教育に取り入れることは有用かもしれません。

在宅医療で情報共有って、そんなに難しいの?——現場で感じる“質の違い” 第7回 日本在宅医療連合学会大会 in 長崎に参加して

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在宅医療連合学会大会 in 長崎に参加してきました。近いので当院スタッフも一緒に参加してきましたよ。プチ旅行な気分です。表の情報と裏の情報を収集してきました…(にやり)今回は在宅医療連合学会で手に入れたキーワードに対しての感想や考察ブログです。 在宅医療の現場で「情報共有が大事だよね」と言うのは簡単ですが、実際にやってみると、これが想像以上に難しい。いや、「難しい」というよりも、 そもそも“情報”の質がバラバラ なんですよね。 たとえば—— どの職種に、どんな情報を、どのくらいの粒度で伝えればよいのか。それは状況によって変わりますし、記録者の視点でも変わる。口頭で済む場面もあれば、文章や画像、動画が適している場面もある。そして当然ですが、「誰が記録するのか」「どこまで書くのか」「その作業が本当に現場にとって負担でないか」——ここも重要な論点です。 在宅医療の難しいところは、病院と違って医師は全てのチームリーダーではないんですよね。介護士さんに情報の共有を指導することは出来ず、「お願いベース」なんですよね。 また、情報共有で思い出すのは、病棟勤務時代のやり取りです。 医師「ちょっと、XXをOOさんに点滴しといて~」 看護師「……すみません、それは指示簿に書いてください」 この一連の“あるある”は、在宅医療でも形を変えて繰り返されます。 医師「チャットに書いたよ!」 看護師「いえ、それは正式に訪問看護指示書へ記録をお願いします」 といった具合です。 つまり、情報共有とひとことで言っても、その 質・伝達経路・正式性 がぐちゃっとしていて、現場は常に揺れ動いているわけです。 「これは共有すべき?」「これは誰宛?」「どこに書くのが正解?」——こんな問いを、在宅医療に関わる人たちは日常的に繰り返しています。 ツールを食べて、咀嚼して、育てる——SlackとLINEの併用 そんな中、当院で比較的うまく回っているのが、 SlackとLINEの併用 です。 Slackは、スレッド機能とチャンネル設計が秀逸で、情報の流れを視覚的に把握しやすいのが強みです。特に「これは誰宛なのか」「どこで議論が進んでいるのか」が見えやすく、チーム医療における“見える化”には向いています。ただし、医療業界全体では普及率がまだまだ低め。 一方、LINEはもう説明不要なほど普及してい...

「10人に1人が“もったいない医療”を受けている?」 ―医療費を考える時代の“かしこい選択”とは―

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はじめに:医療の「無駄」って、誰が決めるの? 「うーん、その検査(薬)要らないと思うよ?」 病院でそんなことを言われたら、ちょっと戸惑うかもしれません。でも今、世界中で注目されているのが「Low-Value Care(LVC)」――つまり「医療としての価値が低い診療」の見直しです。 「医療のムダ」と訳されることもありますが、その言葉には誤解も多く含まれます。今回は、最新の日本の研究をきっかけに、「かしこい医療の受け方」について一緒に考えてみましょう。 論文紹介:「無駄な医療」は誰がやっているのか? 2025年6月にJAMA Health Forumに掲載された研究では、全国のプライマリ・ケア(かかりつけ医)を対象に、10種類のLVC(医療としての価値が低いとされる行為)の実施状況を調査しました【 Miyawakiら, 2025 】:全文無料で読めます:ただし英語。 結果は以下の通り。 対象となった250万人の患者のうち、およそ10人に1人が少なくとも1つのLVCを受けていた。 LVCのうち、上位5つの医療行為だけで全体の95%以上を占めていた。 LVCの約半数は、全体のわずか10%の医師によって提供されていた。 さらに、以下のような傾向も報告されています。 高齢の医師や専門医でない医師によるLVCの提供が多い 患者数が多い医師ほど、LVCの頻度が高い 西日本での提供率が高め こうしたデータは、医療資源の無駄遣いが特定の医師・条件に偏っている可能性を示唆しており、LVC削減の効率的なターゲティングを可能にする材料とも言えます。 個人的には、90%の医師はまともってことは2人の医者が同じようなことを言えばだいたい正しいってことよねってことで安心しました。西日本で多いのは何でだろう? 具体的な「LVC」の中身:実は、身近なものばかり では、その“価値が低い医療”って、一体なんなのでしょうか? 論文で対象となったLVCのうち、頻度が高かった上位5つは以下の通りでした: 風邪(上気道感染症)に対する去痰薬(例:カルボシステインなど) 風邪に対する抗生物質 腰痛に対する注射(神経ブロックやトリガーポイント注射など) 風邪に対するコデインなどの鎮咳薬 腰痛に対するプレガバリン処方 ...

気づき、共有、そして予防へ――チームで支える在宅医療の現場から

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在宅医療では、明確な正解が見えにくい中で、小さな変化や気づきを積み重ねていくことが求められます。 私たち江口医院のチームは、日々の診療に加えて、振り返りや対話を通じて、 気づきの質を高め、連携の力を育てていくプロセスそのものを大切にしています 。 今回のケースカンファレンスでは、心不全という見えにくい病態にどう向き合い、どのように変化に気づき、次にどう活かしていくかをチームで真摯に話し合いました。その中で、 “あのとき”の出来事が、“次の一手”を考えるきっかけとなり、チームとしての視点が広がる ことを改めて実感しました。 私たちは、「うまくいった・いかなかった」ではなく、 そこから何を学び、どう次に活かすか を共有し合うことで、在宅チームとして少しずつ前に進んでいます。 本記事が、他の医療・ケアに携わる方々にとっても、新たな視点のヒントとなれば幸いです。 ■「むくみがない」から安心?在宅医療に潜む盲点 このケースでは、患者さんにいつもより元気がない、倦怠感といった変化がありながらも、明確な「むくみ」や「体重増加」がなく、初動対応が遅れました。 結果として、心不全の診断に至るまで時間を要してしまったのです。 心不全には、左心不全(肺うっ血や呼吸苦) と 右心不全(浮腫や頸静脈怒張) という2つの側面があります。しかし、在宅では、レントゲンをすぐに使えるとは限らず、 「症状がなければ見逃される」という構造的な盲点が存在します。 だからこそ、「いつもできていた動作が最近できない」「なんとなく疲れやすそう」といった微細な変化に目を向けることが、医療チームにとって不可欠なのです。 尚、仮説として肺エコーが使用できないかを考えています。下大静脈は右心不全に至らないと見つかりませんよね。 ■認知症の陰に隠れる“気づき”の難しさ 在宅患者さんの多くは認知症も合併しており、体調の変化を自分から訴えることは困難です。 なんとなく息遣いが悪い。いつもより元気がない(認知症のBPSDの加療を行っているとよりわかりにくくなります)などの気づきは、日常の観察を続けてくださる施設スタッフの存在によって初めて可能になります。 ご本人の小さな変化を察知する力は、私たち医療チームにとってかけがえのない情報源です。 ■プロフェッショナル連携の可能性 POS(Problem O...

「腰が痛い」と言えないあなたへ――腰痛と心のつながりを考える

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会社での会議が長引いたある朝、ふと立ち上がろうとして「うっ」と腰を押さえる…。こんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。 腰痛は、ありふれた不調のひとつです。日本人の約80%が一生のうちに一度は腰痛を経験するといわれており( 2022年国民生活基礎調査 )、とくに働き盛りの世代に多く見られます。 しかし、その腰痛。もしかすると、ただの「体の不調」ではないかもしれません。 「どこも悪くない」と言われても、痛いものは痛い レントゲンもMRIも異常なし。でも、腰は痛い―― こうした「非特異的腰痛」は、腰痛全体の約85%を占めるとされています( 腰痛対策:厚生労働省 )。つまり、ほとんどの腰痛には明確な“原因”が見つかりません。 そして近年、この非特異的腰痛には、 ストレスや心理的要因 が密接に関係していることが分かってきました。腰痛診療ガイドラインでは、マインドフルネスや認知行動療法、漸進的筋弛緩法などが効果があると示されています。 とくに、責任の重いポジションにある方、管理職や経営層では、仕事上のプレッシャーや意思決定の重圧が、知らず知らずのうちに体に表れることがあります。 私たちはそれを「心因性腰痛」とは呼びません。ただ、「痛み」と「こころ」は無関係ではいられないのです。 長引く腰痛の背景には「心のサイン」があるかもしれない 腰痛が3ヶ月以上続く場合、それは「慢性腰痛」と定義され、通常の鎮痛薬だけでは改善しにくくなります。この段階では、 メンタルケアの視点を含めたアプローチ が重要になります。 たとえば、うつ病を背景に持つ患者さんでは、脳の「痛みの感じ方」自体が変化していることがあります。身体的な痛みに過敏になったり、活動量の減少によって筋力が落ちたり、悪循環に陥りやすくなるのです。 そんな時、ただ痛み止めを出すだけでは足りません。 小さな一歩が、大きな変化を生む 当院では、そうした患者さんに対し、以下のような対応を行っています: 痛みに対する正しい理解を共有(痛み教育) スモールステップの運動療法(例:5分の散歩から) ご本人の価値観を大切にした面接(動機づけ面接法) 必要に応じた他院との連携(整形外科での重大疾患の除外、精神科・心療内科との協働) 実際に、うつ病を治療中のある方は、「運動なんて...