完璧じゃなくて大丈夫——糖尿病と上手につき合うために知っておきたいこと
「糖尿病と診断されたけど、何から始めたらいいの?」
これは、外来で本当によくいただく質問です。
糖尿病と向き合うって、言葉では簡単ですが実際はとても難しいです。
生活を変えなきゃいけないと言われても、何から手をつけたらいいのか分からない。
正直、私自身も「医者として知っていても、完璧にできているか」と言われたら、自信はありません。正しい知識があっても出来ないことって沢山ありますよね。
ただ、たくさんの患者さんと一緒に歩んできた経験から言えるのは——
「完璧じゃなくてもいい」「失敗を糧にして続ける」ということです。
今回は、糖尿病と診断されたばかりの方に向けて、医療の現場で実際に話している内容を、少し丁寧にお届けします。
■ 糖尿病の「怖さ」は、じわじわ進むこと
「血糖値が高いって、そんなに悪いことなんですか?」
そう思う方もいるかもしれません。
糖尿病が怖いのは、血管にダメージを与え、動脈硬化を進めることです。
血管の老化が早まり、心筋梗塞や脳梗塞といった大病につながっていきます。
糖尿病を放置した場合、寿命が10年ほど縮まるというデータもあります。
70歳でぽっくり亡くなる、というイメージを持つ方もいますが、実際には60歳ごろに心筋梗塞を発症して、それから10年の闘病生活を経て、70歳で亡くなる。そんな流れが多いのです。
しかも、糖尿病は初期には痛みも不調もない人もいます。(糖尿病性神経障害で疼痛やしびれに苦しまれている方も思ったより多いです。)
だからこそ「今は大丈夫」と思ってしまい、対策が遅れる。
この“静かな進行性”が、糖尿病の厄介なところです。
■ よくあるパターン:「糖尿病に良いものを食べれば改善する」という誤解
よくあるパターンで、「テレビで見た〇〇が糖尿病にいい」と聞いて、それを一生懸命取り入れる方がいます。
サプリや特定の食材で血糖を下げようとする。でも、効果が出た方はごく一部です。
糖尿病の改善には、「何を食べるか」よりも「どれだけ、どう食べるか」が大事。
甘いものをゼロにする必要はありません。
食べすぎないこと、カロリーと時間帯のバランスを取ることの方が、はるかに重要です。
「プリンを我慢し続ける人生」ではなく、「プリンを計画的に楽しむ人生」を一緒に目指しましょう。
■ 運動は何をすればいいの?テニスがいいってホント?
運動療法も大切な柱の一つです。
でも、いきなりジムに通ったり、毎日ランニングを始めたりする必要はありません。
まずは「歩くこと」からで十分です。
「今日は5分多く歩けたな」という小さな積み重ねが、将来の差を生みます。ハードにしすぎると嫌になりますからね。
余談ですが、ある研究では「最も寿命が伸びるスポーツはテニス」という結果も。
テニスは、友達とすることが多く、ダッシュと休憩の繰り返し=インターバルトレーニングになるから、と言われています。
もちろんテニスでなくてもいい。大切なのは、「続けられる運動」を見つけることです。
自分の場合は、ランニングは暑い、水泳は行くのが面倒で、続いているのは自重の筋肉トレーニングと散歩ですね。ランニングは自分を追い込みすぎて「きつかった~」感が強く残るんですよね。本当はミニバレーボールも好きだったのですが、コロナ禍でなくなってしまいました…(涙)懐かしのカラーズ…。
■ 注射=最後の手段?もう古い考えかもしれません
「注射だけはしたくない」
そう思う方、多いです。でも今は、むしろ「注射をしたい」人も増えています。
GLP-1製剤のように、血糖コントロールに加えて体重も減らせる薬も登場しています。
「注射=インスリンだけ」の時代はもう終わりつつあります。
そして、私たちが使っているリブレ(持続血糖測定器)のように、血糖値の変化をリアルタイムで見ながら調整することもできるようになりました。費用はかかりますが、毎日のチクチク(血糖測定)が楽になりますから、当院での継続率は90%を超えています。
薬や注射は、「最終手段」ではなく、「初期からの治療の選択肢の一つ」になってきました。
■ 社会的な背景、ちゃんとわかっていますが変えられない…
夜勤をしている看護師さん介護士さん、非正規で複数の仕事を掛け持ちしている方、
子育てや介護で自分の時間がない方……。
社会的な要因が、血糖値に影響することは、たくさんの研究でわかっています。でも、その背景を無視して「運動してください」「食事に気をつけてください」だけでは、うまくいきません。
大体、十分に運動が出来ている医師のほうが少ないんじゃないですかね(笑)医者ってデスクワークなので忙しいと本当に歩かない。今も300歩しか歩いていない。外来患者さんに自分も歩数で負けてばっかりです。
私自身、患者さんの生活背景を伺いながら、「じゃあ、その中で何ができそうか」を一緒に考えるようにしています。ただ、時短なのは薬物療法なんですよね。
■ 医療機関は「怒られる場所」ではありません
「何か症状が出たら行くところ」「怒られたくないから、行きたくない」
そんなふうに思われる方もいるかもしれません。
でも本当は、病院は“作戦会議”をする場所です。
生活パターン、性格、体質、それぞれ違います。誰にでも当てはまる正解なんて、ありません。
だからこそ私たち医療者は、「あなたに合った方法を一緒に探す」スタンスで診療に臨んでいます。
■ 治療は、失敗と改善のくり返しでいい
治療がうまくいかない日、食べすぎてしまった夜、運動できなかった週。誰にでもあります。
大切なのは、失敗した自分を責めすぎず、次につなげること。私自身も、子どもの誕生日にはケーキを食べますよ~!友達と飲みに行くこともあります。
でも、それで終わりではないんです。「また少しだけ整える」という姿勢で、人生全体を整えていく。
その積み重ねが、糖尿病と上手につき合うコツだと思っています。
■ 糖尿病じゃない人生、ってどんな人生?
遺伝的な影響が強い方もいれば、生活習慣が主な原因の方もいます。完全に糖尿病を「卒業」できる方もいれば、一生つき合っていく方もいます。残念ながら後者が多いですが…。
でも、どちらでもいいんです。「健康に生きたい」「誰かと笑って過ごしたい」その気持ちがあれば、道はあります。
糖尿病になったからこそ、自分の体とちゃんと向き合う。それって、ちょっと誇らしいことでもあると思うんです。
自分の生活に合ったやり方、探してみませんか?
糖尿病の治療は、がんばりすぎなくていい。完璧じゃなくていい。あなたの生活に合ったペースで、一緒に考えることが大切です。食事、運動、薬、そして休息。選択肢はいろいろあります。
「ちょっと聞いてみようかな」と思ったときが、始めどきです。私たちが、その第一歩を一緒に歩きます。
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