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第52回佐賀総合診療ケースカンファレンス:知っておきたい外来呼吸器感染症の最新の話題

2024/11/13 第52回佐賀総合診療ケースカンファレンス:「総合内科医が診る感染症診療」に参加しました。 症例検討会 まずは、佐賀大学医学部附属病院総合診療部の花田先生をはじめとする医師による、3例の症例発表です。これらは診断および治療の過程で重要な学びを提供していました。 症例1:SFTS(重症熱性血小板減少症候群)と敗血症の合併 症例概要 60歳女性、発熱と全身倦怠感を主訴に来院。SFTSウイルス感染症と診断されるも、同時に血液培養からストレプトコッカス感染が判明。敗血症性ショックを合併し、急性腎障害やDIC(播種性血管内凝固症候群)も伴う重篤な状態でした。治療は抗菌薬やCHDF(持続的血液浄化療法)、さらにファビピラビル投与が行われ、徐々に改善しましたが、入院中にカンジダ感染症を発症。最終的には退院可能となりました。 学び SFTSに敗血症が合併した報告は稀であり、早期の血液培養採取の重要性が示されました。また、SFTSの場合CRPが高度高値にはならないのがポイントではないかとの示唆に納得できる内容でした。特に免疫不全患者では細菌感染症の合併を見逃さない診療体制が必要です。特に重篤な病態の場合は、一つの診断のみに絞らず広い視野での対応が必要と考えました。 症例2:劇症型溶血性レンサ球菌感染症 症例概要 発熱、意識障害、嚥下困難を伴うショック状態で救急搬送されました。検査ではDIC、肝障害、腎機能障害を認め、感染症が疑われましたが、頭部CTや胸腹部CTでは明確な感染巣を特定できず。治療中に急速な多臓器不全が進行し、集中治療を要しました。 学び 感染症診療では、原因不明のケースでも全身管理を優先し、ショックへの対応や多臓器不全予防が重要です。また、迅速な抗菌薬治療の判断とDIC管理の適切性が問われました。 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は医師の人生で3回ほど診断に至ったことがあります。ただし、この症例ほどは局所症状が乏しくはなかったですね。ちなみに研修医初期に同様の疾患で発表をしたことがあったので、懐かしくなりました。 症例3:熱中症と誤診しやすい日本紅斑熱 症例概要 熱中症を疑わしい時期と環境ではあったが、皮疹を契機に診断に至った症例でした。発熱と意識障害を主訴に搬送され、敗血症性ショックと診断。 学び 先行する情報からアンカリングバイアスに取り憑かれそうな...

第32回佐賀心不全研究会:経皮的左心耳閉鎖術・老化と生活習慣病

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第32回佐賀心不全研究会について 約30年前から行われており、今回が最後の開催となるとのことでした。心不全がますます増える中、情報共有が出来る機会が少なくなり残念に思います。思い出深い研究会なのでしょうか、いつもより重鎮の先生方の参加が目立っていました。 経皮的左心耳閉鎖術の導入後の現状と課題 佐賀大学医学部循環器内科横井先生より、経皮的左心耳閉鎖術の導入後の現状と課題が発表されました。心房細動の患者に対し、まずはカテーテルアブレーションの適用を検討し、抗凝固療法の継続が難しい場合に左心耳閉鎖術を行う治療フローが紹介されました。特に、出血リスクが高い患者や過去に脳梗塞を繰り返している患者が対象であることが強調されています。また、日本の伏見レジストリデータに基づき、多くの患者が高リスク群であるため、抗凝固療法の重要性も言及されました。閉鎖術後の患者の経過については、出血や脳梗塞リスクの管理が依然として課題とのことでした。 さらに、閉鎖術の適用患者における心房心筋症の進行度を病理学的視点から分析する新たな取り組みが紹介され、進行した心筋症がアルツハイマー病に似た進行性疾患である可能性が示唆されました。 当院では現在、消化管出血のために抗凝固療法を断念している患者がいらっしゃいますが、LAA閉鎖術を選択肢として考慮することは非常に重要であると感じています。特に認知症やADL(活動能力)を考慮する必要があるため、患者の状態に合わせた慎重な検討が求められます。 成功率とトラブル事例 佐賀大学でのLAA閉鎖術に関する実績では、成功率が非常に高いとされていますが、1例(亀背が強い患者さん)のみ撤退が必要だったとのことです。 連携の重要性 LAA閉鎖術を検討する際、消化管出血の治療は消化器内科、不整脈の管理は循環器内科と、各専門科との連携が不可欠です。これらの分野での連携が取れていない場合、LAA閉鎖術が治療選択肢として浮上しない可能性があります。そのため、各医師間での情報共有が重要です。特に大きなイベントに関しては、一見関係なさそうに思える場合でも、報告することで治療選択肢が広がる可能性があります。 患者選択と治療の未来 LAA閉鎖術を行う場合、症例選択が非常に重要です。高リスク患者においては、治療後のトラブルが多くなる可能性があるため、十分な患者選択と術前・術後の管理が必要です...

「Palliative Care Research2024年 第19巻3号」最新号?から得た知見をもとに、江口医院が目指す緩和ケアの未来

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当院では、がんをはじめとした治癒が難しい疾患を抱える患者様のQOL(生活の質)向上を目指し、緩和ケアの充実に努めています。 今回は、緩和ケア分野の学術雑誌である「Palliative Care Research(緩和ケアリサーチ)」の最新号 ではない (2024年 第19巻3号)から、医療現場において特に参考になるトピックをいくつかご紹介いたします。最新号を読み込むのが常だったのですが失念しておりました。最新号4号が既に発刊されていますので、次のトピックは少しお待ち下さい。 https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jspm/19/3/_contents/-char/ja がんや慢性疾患の診療に従事されている医療従事者の方や、患者様のケアに携わるご家族の皆様にとって、役立つ情報が詰まっています。 Palliative Care Research(緩和ケアリサーチ)とは? 「Palliative Care Research」は、がんや慢性疾患を抱える患者さんの生活の質を向上させることを目的に、緩和医療を発展させるための研究や実践、教育を促進する学術雑誌です。この学会は、多分野の専門家が連携し、最前線での緩和医療の発展に貢献しています。緩和ケアが社会的にも求められる現在、当院でも老衰、臓器障害、悪性腫瘍の患者様に対して、こうした研究成果を実臨床に応用しています。 最新号からの注目トピック 1. 看護師のエンドオブライフケア実践の評価尺度 緩和ケアでは、患者様やご家族が終末期をどのように過ごされるかが大きなテーマです。最新号では、看護師が患者様のQOL向上に寄り添うための新しい評価尺度が開発され、終末期ケアの実践に役立つことが期待されています。 特に図2の因子分析結果は、終末期に携わる看護師が行うべきリストとして使用できると思います。ただし、具体的な方法までは言及されていません。どうやってこの目標を達成するかは追加研究が必要ですね。 エンドオブライフケアは、多職種の連携が不可欠であり、当院でもこのような知見を共有しながらチーム全体でサポート体制を整えています。 2. 緩和ケア病棟でのソーシャルワーカーの役割 緩和ケア病棟において、地域連携室、ソーシャルワーカーが果たす役割は非常に大きく、患者様とそのご家族が抱える悩みや問題に寄り添います。今回...

がん患者さんの質問促進リストと意思決定支援ガイドのご紹介

先日のがん医療における患者とのコミュニケーションガイドラインを紹介しました。その中でも推奨度が高いとされている2つの方策を紹介したいと思います。 がん診療の場面で活用いただける「質問促進リスト」と「意思決定支援ガイド」をご紹介します。これらのツールは、患者さんやご家族、ケアマネージャー、訪問看護師の方々が治療をより深く理解し、安心して意思決定を行えるようサポートしてくれます。 1. がん患者のための「質問促進リスト」とは? https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/psychiatry/psychiatry_panfu.pdf 「質問促進リスト」は、がん診療のさまざまな場面で患者さんやご家族が医療者に尋ねやすいよう、よくある質問をまとめたリストです。「診断」「病状」「検査」「治療」「生活」などのカテゴリーごとに典型的な質問が分かりやすく整理されており、例えば以下のような場面で活用いただけます。 診断時 : 診断内容や治療の流れを理解する際 治療開始時 : 治療方法や副作用、生活への影響を把握するため 治療方針の変更時 : 新たな治療方法や治療目的の確認 緩和ケアへの移行時 : 痛みや症状のケア、生活サポートの相談 質問促進リストのメリット このリストを活用することで、患者さんやご家族が何を質問すべきかが明確になります。質問を言葉にできない方や、何を尋ねるべきか分からない方にとって、リストがあることで聞き漏れを防ぎ、不安を軽減する助けとなります。また、必要な情報を網羅することで治療への納得感が増し、安心して意思決定が行えるようになります。 先日早速使用しました。病状説明のときに供覧しながら説明してみました。想定されるイベントなどを共有できて良かったです。しかし、情報量がかなり多くなってしまいます。メモを取りながらの対応が必須な印象です。 2. 「意思決定支援ガイド」の役割と活用方法 意思決定支援ガイドは、特に 乳がん治療 において公開されているガイドで、 治療方法の選択やリスク・副作用、費用、生活への影響 までが分かりやすく表形式でまとめられています。(肺癌もあるのですが、有料です。購入は可能です。) https://www.healthliteracy.jp/decisionaid/DA_Breast_Cancer_surgery_2...

がん医療における患者とのコミュニケーションの重要性と課題

がん医療の現場で患者とのコミュニケーションは重要であり、適切に行われることで患者の理解や信頼が深まります。この記事では、2022年版「がん医療における患者—医療者間のコミュニケーションガイドライン」をもとに、現場での課題や工夫について考察します。 1. 現状の課題:厳しい現実と患者理解の間で がんの診断や病状説明では、患者さんに現実的な情報を伝える必要がありますが、率直すぎる説明は時に患者さんに心理的な負担を与え、信頼関係が損なわれることもあります。また、訴訟対策の観点からも、医療者は正確で厳格な説明を行う必要がありますが、この対応が患者との距離を広げる一因となることもあります。 一方で、患者さんを傷つけないように配慮しすぎてしまうと、治療における重要な理解が不足し、インフォームド・コンセントが不十分となる恐れもあります。患者さんが納得し、安心して治療に臨むためには、現実をしっかり伝えつつも、心理的なサポートを忘れない姿勢が重要です。 2. 信頼関係を築く工夫と改善策 患者さんと良好な関係を築くためには、単に病状を伝えるだけでなく、患者さん自身の価値観や生活スタイル、過去の経験などを理解することが大切です。医療者が患者さんの考え方や気持ちを先回りして話すことで、「自分のことを理解してくれている」と患者さんが感じやすくなり、信頼が深まります。 ただし、患者さんを理解する時間が現場には圧倒的に足りません。プライマリ・ケアでは1回の診察ごとに少しずつ積み重ねていきます。しかし、救急の場面などでは1人の患者さんに対応できる時間が限られています。(医師の効率化は他のコメディカルよりも強く求められています) ガイドラインには、「患者が医療者に質問しやすい雰囲気作り」を促すリストも含まれており、これを活用することで患者が遠慮なく不安を相談できるようになると期待されています。 3. 心理的サポートとしての「SHAREスキル」 医療現場では、患者さんの不安や恐れに寄り添う心理的サポートとして「SHAREスキル」がよく活用されます。特にがん告知の場面では、患者さんが一度で全てを理解できない場合も多く、複数回にわたって説明を行ったり、書面で情報提供することも気がけています。 実際には、マインドマップを用いて病状や治療方針を視覚的に整理して説明する方法も取り入れています。視覚的な情報補助は...

ドクターサロン10月号の注目ポイントと当院の取り組み:高齢認知症患者と骨粗鬆症治療に対するアプローチ

認知症や骨粗鬆症は、高齢者にとって重要な健康問題です。ここでは、江口医院の視点から、それぞれの疾患に対する最新の知見と治療方針について詳しく解説します。認知症患者やその家族、また骨粗鬆症のリスクがある方にとって参考になるような内容をお届けします。

地域医療と高齢化社会における課題と解決策:プライマリーケア連合学会佐賀県支部第9回学術集会の講演から

高齢化社会と内科医の課題 今回のプライマリーケア連合学会佐賀県支部の講演では、高齢化社会における地域医療の課題について議論が行われました。町立太良病院の上通年生からは、特に内科医の高齢化が進む中、現場では「訪問診療をしてくれる医師」が求められているといいます。多くの医師が70歳を超えても外来診療を続けていますが、訪問診療では患者宅での物理的負担も加わるため、体力が必要です。高齢の医師が家庭に訪問し、段差のある玄関や布団に座るなどの対応を強いられることが、現場での課題とされています。オンライン診療は遠隔地での医療支援手段として一部期待していましたが、実際の現場ニーズとしては訪問診療が圧倒的に優先されることがわかりました。 医療人材の派遣とキャリア形成の工夫 県の医務課前山氏からも、人材派遣による地域医療の支援に関する発表がありました。特に、地域の病院に医師を派遣し、その病院の医師がさらにプライマリケアに関わるという「屋根瓦方式」は、医師のキャリア形成、キャリアギャップの補完、移動コストの両面でメリットがある感じました。しかし、総合診療医や家庭医療のスキルを持つ医師を確保すること自体が困難であることや、女性の医師が増えてきて保育園に預けた後に地方に行くと、そもそも業務時間が十分に取れないことを課題として上げられていました。ということで、移動コストを軽減する方法として、自動運転車の活用も一つの解決策になるのではないかと考えました。医師が僻地医療に従事する際、自動運転車があれば、運転に伴う疲労を軽減し、移動中の休息が可能となります。例えば、キャンピングカーのような設備を備えた車両や、寝台列車のような快適な移動手段があれば、医師がリラックスした状態で現場に到着し、診療に集中することができるでしょう。 フィッシャー症候群の症例と迅速な診断 学術集会の最後には、フィッシャー症候群の症例に関するカンファレンスが行われました。この症例では、患者が昼間に眼科や耳鼻科で受診し異常が見られなかったにもかかわらず、夕方には救急を受診するというスピード感が印象的でした。感染症であれば、相当進行が早いものと予測されます。自己免疫疾患、薬物による影響などが疑われ、迅速な診断が必要とされる状況です。また、自覚症状と他覚症状、身体所見のギャップも特徴的に感じました。 ケースカンファレンスと診断技術の重...