第32回佐賀心不全研究会:経皮的左心耳閉鎖術・老化と生活習慣病
第32回佐賀心不全研究会について
経皮的左心耳閉鎖術の導入後の現状と課題
佐賀大学医学部循環器内科横井先生より、経皮的左心耳閉鎖術の導入後の現状と課題が発表されました。心房細動の患者に対し、まずはカテーテルアブレーションの適用を検討し、抗凝固療法の継続が難しい場合に左心耳閉鎖術を行う治療フローが紹介されました。特に、出血リスクが高い患者や過去に脳梗塞を繰り返している患者が対象であることが強調されています。また、日本の伏見レジストリデータに基づき、多くの患者が高リスク群であるため、抗凝固療法の重要性も言及されました。閉鎖術後の患者の経過については、出血や脳梗塞リスクの管理が依然として課題とのことでした。
さらに、閉鎖術の適用患者における心房心筋症の進行度を病理学的視点から分析する新たな取り組みが紹介され、進行した心筋症がアルツハイマー病に似た進行性疾患である可能性が示唆されました。
当院では現在、消化管出血のために抗凝固療法を断念している患者がいらっしゃいますが、LAA閉鎖術を選択肢として考慮することは非常に重要であると感じています。特に認知症やADL(活動能力)を考慮する必要があるため、患者の状態に合わせた慎重な検討が求められます。
成功率とトラブル事例
佐賀大学でのLAA閉鎖術に関する実績では、成功率が非常に高いとされていますが、1例(亀背が強い患者さん)のみ撤退が必要だったとのことです。
連携の重要性
LAA閉鎖術を検討する際、消化管出血の治療は消化器内科、不整脈の管理は循環器内科と、各専門科との連携が不可欠です。これらの分野での連携が取れていない場合、LAA閉鎖術が治療選択肢として浮上しない可能性があります。そのため、各医師間での情報共有が重要です。特に大きなイベントに関しては、一見関係なさそうに思える場合でも、報告することで治療選択肢が広がる可能性があります。
患者選択と治療の未来
LAA閉鎖術を行う場合、症例選択が非常に重要です。高リスク患者においては、治療後のトラブルが多くなる可能性があるため、十分な患者選択と術前・術後の管理が必要です。しかし、消化管出血などの理由で抗凝固薬が使えない患者にとって、LAA閉鎖術は非常に有効な治療選択肢となる可能性があり、今後ますます注目されるべき治療法だと感じました。
早速、不整脈ガイドラインで復習してみましたが、左心耳閉鎖術の推奨度はまだそこまで高くないように記載されていますので、やはり慎重な適応の検討が必要なのでしょう。
SGLT2阻害薬と一時的な飢餓状態による老化細胞への影響
更に順天堂大学医学研究科循環器内科南野徹先生からラットモデルを用いた老化細胞の変化についての最新研究が紹介されました。
老化細胞とは?
老化細胞とは、細胞が分裂を停止し、免疫から逃れつつ組織に長く残る状態になった細胞です。老化細胞が細胞分裂を停止するのは癌化するのを防ぐためだそうです。老化細胞は炎症を引き起こし、生活習慣病や加齢に伴う様々な疾患に関与しています。そのため、老化細胞の制御はアンチエイジングや慢性疾患の予防において注目されています。
1. SGLT2阻害薬による老化細胞の減少
今回の講演で私が最も注目したのは、SGLT2阻害薬が老化細胞の減少に寄与する可能性です。SGLT2阻害薬は主に糖尿病治療薬として用いられますが、この研究では老化細胞の制御にも役立つ可能性が示唆されました。SGLT2阻害薬はインスリンに依存せずに血糖を下げ、腎臓からの余剰なブドウ糖の排出を促進しますが、その作用が老化細胞の減少にもつながる点は非常に興味深いです。これにより、糖尿病や老化に伴う慢性疾患の発症を予防する新たなアプローチが期待されます。
2. 一時的な飢餓状態の影響
もう一つの重要な発見は、一時的な飢餓状態が老化細胞に及ぼす影響です。飢餓状態では、体はエネルギー不足に対応し、細胞のリサイクルシステムが活性化します。この過程で老化細胞が除去されるため、老化の進行を抑える効果があると考えられます。講演で紹介された研究結果から、一時的な飢餓が老化細胞の減少に役立つ可能性が強調され、ファスティングやカロリー制限が健康寿命の延伸につながる理由が科学的に裏付けられたと言えるでしょう。
今後の臨床応用と可能性
これらの研究は基礎的な段階にありますが、将来的には糖尿病治療薬や生活習慣改善が、単に疾患予防だけでなくアンチエイジングの観点からも有望視されるでしょう。老化細胞の除去が疾病予防や健康寿命の延伸に貢献することが期待されるため、糖尿病を持つ患者さんだけでなく、高齢者や生活習慣病リスクがある方にも参考になる知見です。
尚、南野先生は老化細胞ワクチンを開発中とのことでした。情報交換会では、様々な質問にも答えて頂きました。GLP1受動態作動薬や運動が、ラット、病理学的にどのように影響すると考えられているのかなどを気さくに教えていただきました。テストステロンや成長ホルモンがどのように影響するか、プラセンタはどうか、アンチエイジングとウェルエイジングをどう考えるかなどの疑問点はまだまだ残りましたが、時間が来てしまいました。
あまりに興味深い内容だったので南野先生の書いた本でも読もう!!と思いましたが…。
アマゾンで59,400円…。買ったかどうかはご想像にお任せします…。
ちなみに孫引きしていくと、アンチエイジング学会なるものがあり、南野先生はその学会の役員も務めておられるようでした。
SGLT2阻害薬の可能性や生活習慣改善の重要性について改めて考えさせられました。エビデンスに基づいたケアの提供を通じて、患者さんが健康に年齢を重ねられるよう、今後も最新の知見を取り入れていきたいと思います。
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