がん医療における患者とのコミュニケーションの重要性と課題

がん医療の現場で患者とのコミュニケーションは重要であり、適切に行われることで患者の理解や信頼が深まります。この記事では、2022年版「がん医療における患者—医療者間のコミュニケーションガイドライン」をもとに、現場での課題や工夫について考察します。

1. 現状の課題:厳しい現実と患者理解の間で

がんの診断や病状説明では、患者さんに現実的な情報を伝える必要がありますが、率直すぎる説明は時に患者さんに心理的な負担を与え、信頼関係が損なわれることもあります。また、訴訟対策の観点からも、医療者は正確で厳格な説明を行う必要がありますが、この対応が患者との距離を広げる一因となることもあります。

一方で、患者さんを傷つけないように配慮しすぎてしまうと、治療における重要な理解が不足し、インフォームド・コンセントが不十分となる恐れもあります。患者さんが納得し、安心して治療に臨むためには、現実をしっかり伝えつつも、心理的なサポートを忘れない姿勢が重要です。

2. 信頼関係を築く工夫と改善策

患者さんと良好な関係を築くためには、単に病状を伝えるだけでなく、患者さん自身の価値観や生活スタイル、過去の経験などを理解することが大切です。医療者が患者さんの考え方や気持ちを先回りして話すことで、「自分のことを理解してくれている」と患者さんが感じやすくなり、信頼が深まります。

ただし、患者さんを理解する時間が現場には圧倒的に足りません。プライマリ・ケアでは1回の診察ごとに少しずつ積み重ねていきます。しかし、救急の場面などでは1人の患者さんに対応できる時間が限られています。(医師の効率化は他のコメディカルよりも強く求められています)

ガイドラインには、「患者が医療者に質問しやすい雰囲気作り」を促すリストも含まれており、これを活用することで患者が遠慮なく不安を相談できるようになると期待されています。

3. 心理的サポートとしての「SHAREスキル」

医療現場では、患者さんの不安や恐れに寄り添う心理的サポートとして「SHAREスキル」がよく活用されます。特にがん告知の場面では、患者さんが一度で全てを理解できない場合も多く、複数回にわたって説明を行ったり、書面で情報提供することも気がけています。

実際には、マインドマップを用いて病状や治療方針を視覚的に整理して説明する方法も取り入れています。視覚的な情報補助は、患者さんが内容を理解しやすくするための有効な手段だと思います。特に治療の選択肢が多い場合や、病態と治療が相反するときには有用です。

4. 意思決定支援と患者への寄り添い

がん治療における意思決定は、患者さん一人ひとりの過去の経験や価値観に基づいて支援されるべきです。たとえば、予防や健康管理を日頃から頑張ってきた方には、その努力を理解した上で治療方針を提案します。一方で、治療や健康管理に対して苦労を重ねてきた方には、無理のない範囲での選択肢を丁寧に説明します。

5. 今後の展望:AIとオンライン診療の活用

今後、AIを活用して患者との対話内容を要約したり補足情報を提供する技術が発展すると、より効率的で充実したコミュニケーションが可能になると期待しています。また、遠方に住む家族が患者のサポートに関わりやすくするために、リモートでの病状説明のニーズも高まるでしょう。これにより、患者の安心感や理解を深める環境が整備され、患者と医療者が協力しながら治療に向き合うことができるようになります。

尚、このガイドラインで強い推奨となった質問促進リストと意思決定支援ガイドについては別ブログでご紹介させて頂きます。

参考文献:がん医療における患者—医療者間の コミュニケーション ガイドライン(全文無料でダウンロード可能)

https://jpos-society.org/pdf/gl/2023communication/all_2023-guideline-communication.pdf

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