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長引く咳、もしかして百日咳?

 「なかなか咳が治らない」「発作的に咳き込む」「咳の後に嘔吐してしまう」 こんな症状に心当たりはありませんか?風邪や気管支炎と思っていたら、実は百日咳だったというケースもあります。佐賀で流行っていることもあり、心配で来院される方も増えてきました。今回は、百日咳について詳しく解説します。 百日咳とは? 百日咳は、 ボルデテラ・パータシス( Bordetella pertussis ) という細菌による感染症で、 乳幼児から成人まであらゆる年齢で発症 します。特に 6カ月未満の乳児 では重症化しやすく、注意が必要です。ただ、江口医院には乳児はほとんど受診しません。 百日咳の特徴的な症状 百日咳は 3つの時期 に分けて進行します。 カタル期(1〜2週間) 風邪に似た症状(軽い咳、鼻水、微熱) まだ百日咳とは気づかれにくい(超重要ポイント!) 痙咳期(2〜6週間) 発作性の咳込み (特に夜間に多い) 吸気性笛音 (息を吸うときに「ヒュー」と音がする) 咳の後の嘔吐 回復期(数週間〜数カ月) 咳が徐々に減少する しかし、刺激で再び発作的に咳き込むこともある 百日咳の診断方法 百日咳は、 14日以上の咳嗽、発作性の咳込み、吸気性笛音、咳嗽後の嘔吐 があれば臨床的に疑います。カタル期はいわゆる風邪症状なので、 著明な流行や家族内感染 が疑われない場合は積極的には検査は行わないことが多いです。 検査方法 LAMP法(遺伝子検査) 久留米臨床検査センターに依頼し当院でも開始しました。ただし、流行りすぎて現時点(2025/04/04)では検査用スワブがなくなってきている様子です。 PCR検査との比較は感度71.4%、特異度100%、全体一致率98.1% 早期診断に有用 血清診断(抗体検査) 感度93.8%と非常に高い 発病後2〜3週間経過後に有効(つまり、診断は出来ても治療は限定的) 培養法 感度11.1%と低く、実用性が低い 百日咳と似た病気との鑑別 百日咳と似た症状を示す疾患には、 マイコプラズマ肺炎 や 咳喘息 があります。 疾患 主な特徴 百日咳      発作性の咳、吸気性笛音、咳後の嘔吐 マイコ...

【詳しく知らないと損する、帯状疱疹ワクチンの案内】

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帯状疱疹の真実―悪化すると「痛み」に悩まされ続ける可能性も 帯状疱疹はご年配の方に多く、病気・疲れ・ストレスがともなったときに発症しやすいです。この病気自体も痛みを伴いますが、さらに悪化すると「帯状疱疹後神経痛 (PHN)」と呼ばれる激しい痛みが残ることがあります。 帯状疱疹後の神経痛( postherpetic neuralgia;PHN )の観測データと痛みの強さ 帯状疱疹症例の 10〜50% でPHNを発症 60歳以上では 9.2% の人が3ヶ月以上痛みに悩まされる イタリアの調査では50歳以上の 20.6% が3ヶ月後も痛みを感じ、 9.2% が6ヶ月後も痛みが続いた 痛みは「焼けるような」「ズキンズキンとする」と表現されることが多く、衣類が触れるだけで強い痛みを感じる「アロディニア」に苦しむ人もいます。この痛みは数年にわたって残ることもあり、生活に大きな影響を与えます。 この痛み、帯状疱疹ワクチンで防げます 帯状疱疹は、水ぼうそうウイルスが体内に潜伏し、免疫が低下したときに再活性化することで発症します。しかし、ワクチンで予防することで発症率やPHNの発症率を大きく下げることができます。 帯状疱疹ワクチンの種類と比較 帯状疱疹ワクチンには主に2種類あります。 生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン) 1回接種 予防効果:1年後60%、5年後40% 自己負担額:2500円(佐賀市!!) 免疫抑制剤を使用中の人はできません 組み換えワクチン(シングリックス) 2回接種(2か月間隔) 予防効果:1年後9割、10年後7割 自己負担額:13,000円 副作用が生ワクチンより多め より高い予防効果を求める方には、 組み換えワクチン がおすすめされることが多いですが、費用や接種回数の違いを考慮し、ご自身に合った選択をすることが重要です。 どちらもメリット・デメリットありますので、 医師が一概にどちらかを勧めることはあまりありません。 極論でどちらを選べばいいの? 1回の接種で済ませたい人 → 生ワクチン より新しいワクチンを希望する人 → 組み換えワクチン 費用を抑えたい人 → 生ワクチン(2,500円) 2回接種でも問題ない人 → 組み換えワクチン(13,000...

RSVは高齢者にとっても危険!インフルエンザとの違いと予防策を解説

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1. RSVとは?高齢者にとっても危険な理由 RSV(呼吸器合胞体ウイルス: respiratory syncytial virus )は一般的に乳幼児の感染症として知られていますが、 高齢者にとっても深刻なリスク があることをご存じでしょうか? 実際、 最近の研究 によると、 RSVはインフルエンザと同等、もしくはそれ以上の影響を高齢者に与える ことが分かっています。特に、高齢者では肺炎や慢性疾患の悪化を引き起こし、入院後の再入院率や1年以内の死亡率が高くなることが報告されています。 2. RSVとインフルエンザの違い RSVとインフルエンザはどちらも極論風邪、呼吸器感染症ですが、症状や影響に違いがあります。 このように、 RSVは診断が難しく、特異的な治療法もないため、予防が非常に重要 です。 3. RSVの高齢者への影響と予防の重要性 高齢者がRSVに感染すると、 呼吸不全、肺炎、心不全の悪化 などを引き起こすことがあります。さらに、 入院後の再入院率が RSVの方がインフルエンザよりも高い(34% vs 28.9%) 1年以内の死亡率も RSVの方が高い(12.9% vs 10.3%) 4. RSVワクチンについて 2023年に RSVワクチンが承認 され、高齢者の重症化を防ぐ手段として推奨されています。 A) RSVワクチンの効果はどれくらい? RSV(呼吸器合胞体ウイルス)による感染症を防ぐために、新しく開発されたワクチンが「アレックスビー筋注用」です。このワクチンを接種すると、以下のような効果が確認されています。 重症化を大幅に防ぐ! RSVによる 肺炎や重症呼吸器疾患を防ぐ効果が82.58% RSVによる 急性呼吸器疾患の予防効果は71.71% つまり、ワクチンを接種することで、 RSVによる重い病気になるリスクを約80%も減らせる ことが確認されています。 B) ワクチンはどんな人が受けられる? 60歳以上のすべての人 50歳以上で、以下のリスクがある人 慢性肺疾患(COPD・喘息 など) 心疾患(心不全・狭心症 など) 糖尿病 肥満 慢性腎臓病・肝疾患 ※ 1回の接種でOK! (現時点では追加接種の必要はなし) C) 副反応はあるの? ワクチン接種後、一時的に以下のような副反応がみられることがあります...

家族で話そう、これからの医療とACP 〜高齢者救急の最新提言2024〜

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超高齢社会の進行に伴い、家族や医療者が高齢者の急変時に適切な判断を下すことは難しくなっています。特に、救急医療の現場では、本人の意思に沿わない処置が行われることも少なくありません。今回発表された「 高齢者救急問題の現状とその対応策についての提言2024 」は、こうした問題を解決するために、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の推進や、緊急時の対応マニュアルの整備などを提案しています。 このブログでは、個人的な提言のポイントを解説し、家族がACPを進めたくなるような理由や具体策について掘り下げます。また、施設の現場の悩みも追記しています。 詳細は本文を見ていただくと、より深く理解できるはずです。介護中の家族、研修医、医学生(在宅医療や救急外来に行く前がオススメ)、看護学生、施設管理者、ヘルパー、ケアマネージャーなど広く皆さんにお勧めできる内容になっています。 この提言の秀逸なところは、各コラムが勉強になるところです。DNARや延命治療について軽く紹介していますが、本文のほうが詳細に解説されており勉強になります。 1. ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の推進が必要な理由 高齢者が突然の病気や事故で救急搬送される際、本人の意思が確認できない状況は珍しくありません。 こうした場合、家族は「この選択が本当に良かったのか?」と深い後悔や罪悪感に苛まれることが多いのです。 最も悪いケースとしては、 本人:侵襲的な延命治療をしたくないのにされる。 家族:責任が取れない、取りたくないから、延命治療をする。したあとに後悔する。 社会:医療資源が圧迫され、救急部門が疲弊する。 そこで、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要になります。ACPとは、本人が望む医療やケアについて、家族や医療者と繰り返し話し合い、あらかじめ方針を決めておくプロセスです。 家族がACPを進めるべき3つの理由 後悔を減らすために 家族が本人の希望を把握していれば、急変時の対応に迷うことが減り、「あのときこうすればよかった」という後悔も少なくなります。特に、DNAR(Do Not Attempt Resuscitation: 心肺蘇生を希望しない指示)のような選択は、家族の心理的負担が大きいため、事前に話し合っておくことが非常に効果的です。急いで決めることは心理的負担がすごく大きいです。 ...

在宅医療における排泄ケアと訪問看護の最新動向 — 日本在宅医療連合学会誌 Vol.6 No.1 を読んで

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はじめに 在宅医療の現場では、「排泄ケア」や「訪問看護」の質が患者のQOL(生活の質)に大きく影響します。今回は、日本在宅医療連合学会誌 Vol.6 No.1 に掲載された論文を読み、その内容から見えてきた課題と改善策について考察しました。 要点 排泄ケアプリントをゲットせよ 退院直後は特別訪問看護指示書で自宅の長期療養をサポート デジタルモニタリングは有用だがプライバシーへの配慮をどう克服するか 排泄評価にポータブルエコーを活用せよ 1. 在宅認知症高齢者の排泄ケア研修の効果 概要 介護職員25名を対象に、排泄ケアの自己効力感と実施状況を評価したところ、自己効力感は有意に向上したものの、実施状況には有意な変化は見られませんでした。特に、「信頼を得た支援者として関わる」「排泄の困りごとを傾聴し共感する」という項目での向上が目立ちました。 この論文は、排泄ケアの学習シートが秀逸です(P3)。医学生、研修医の先生方も一度目を通しておくと良いと思います。 疑問が残るのは、自己効力感は向上したのに、実施状況が改善しなかった理由でしょうか。実施が進まない原因(時間や人手の不足など)があるのでしょうか。まぁ排泄ケアは患者さん、利用者さんのニーズありきなので、自信が付いたから増えるものでもないような気がします。 2. 訪問看護の回数と入院・施設入所の関係 概要 訪問看護開始2週間での訪問回数が多いほど、入院や施設入所のリスクが低下することが示唆されています。具体的には、訪問回数が多いほどオッズ比が低く、特別訪問看護指示書の有効性が確認されました。初期の2週間がうまくいくと「長期的」な入院、入所が減るという内容です。 訪問回数の増加と効果の因果関係について、環境調整、信頼関係、ケア指導が影響しているのではないかと考察で指摘されています。個人的には本人や家族の不安感や信頼関係の構築も効果があるのではないかと思います。 【NG】対象者が自宅患者か、施設患者かがすぐには読み取れませんでした。アウトカムを入院、入所としているので自宅の可能性が高そうですが。 特別訪問看護指示書の必要性を感じる論文ではあります。対費用効果も2週間の特別訪問看護指示書によるサポートと長期的な入院、入所コストなので感覚的には採算があうのではないかと考えています。 3. デジタルケアマネジメントと...

医療と介護の連携でQOLを守る:ハスカップ・レポートハスカップ・レポート2023-2025を参考に

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市民福祉情報オフィス・ハスカップが発行する『 ハスカップ・レポート2023-2025 』は、介護保険制度の利用に関する疑問や不安に応える一冊です。2006年から電話相談を担当してきた経験をもとに、典型的な相談内容をQ&A形式でわかりやすく解説しています。制度の使いづらさについて、社会保障審議会の資料を活用しながら説明しています。全88ページで小項目に分かれていますので比較的読みやすいですよ。 以下のような方にお勧めです。 突然の介護が必要になり戸惑う方々 在宅医療で介護分野と関わる医師 クリニックで介護の相談を受ける看護師 ケアマネージャーを始める人、ケアマネージャーに興味がある人 入院をきっかけにADL(日常生活動作)が低下する高齢患者は多く、その回復には医療と介護の連携が不可欠です。特に、介護保険制度を適切に活用することで、患者のQOL(生活の質)を向上させることが可能になります。本記事では、ケアマネージャーの役割や介護保険の課題について考察し、医療と介護の協力がいかに重要かを解説します。 ケアマネージャーの役割とその大変さ ケアマネージャーは、患者や家族と相談しながら、適切な介護サービスを調整する役割を担っています。しかし、このレポートが指摘するように介護保険の仕組みが複雑であるため、ケアマネージャーの負担は非常に大きいのだろうと予測されます。 例えば、特別養護老人ホーム(特養)への入所は、要介護3以上が原則ですが、特例として要介護1や2でも入所が認められる場合があります。このような特例を適用するには多くの手続きが必要であり、ケアマネージャーの尽力が不可欠です。 また、ホームヘルプサービス(訪問介護)においても、同居家族がいる場合の利用条件が厳しく設定されており、家族の介護負担が過大になりやすい問題があります。こうした制度の複雑さが、介護の現場をさらに難しくしているのでしょう。 医療と介護の連携が必要な場面 当クリニックでは、患者のADL低下が見られた際に、医療と介護を連携させることを重視しています。特に以下のようなケースでは、介護保険を案内しながら、ケアマネージャーや訪問看護と連携することが重要です。 入院後のADL低下 :肺炎などで入院後、身体機能が低下し、自宅での生活が難しくなる。 訪問看護の導入 :がん患者のADL低下が進行し...

がん患者のメンタルサポートにおける重要な概念:令和6年度 第3回 佐賀県がん診療連携拠点病院緩和ケア症例検討会

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がん患者や終末期医療におけるメンタルサポートは、患者本人だけでなく、家族や支援者にとっても重要な課題です。現在、がんの在宅医療に関わっている先生方は内科や外科の医師が多く、精神科の医師は少なく感じています。一方、緩和ケア病棟には精神科の医師の配置基準があるので羨ましいです。 そんな中、佐賀大学医学部附属病院 精神神経科 助教 松島 淳 先生のメンタルケアに対する講演を聞く機会があったので、その中から個人的なトピック、キーワードを紹介します。本記事では、メンタルケアに関連する重要な概念を紹介し、実践的な視点を提供します。 1. デモラリゼーションとは デモラリゼーション(Demoralization)とは、深い無力感や希望の喪失、目的の喪失を指し、がん患者において特に顕著に見られる心理的状態です。うつ病とは異なり、持続的な抑うつではなく「どうしてよいかわからない」という感覚が特徴です。適切なメンタルケアや支援により改善が期待できます。 2. PTSDの自然回復経過と幸福感の設定値理論 がん患者は診断や治療の過程で強いストレスを経験し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することがあります。しかし、PTSDには自然回復の経過があり、多くの患者は時間とともに症状が軽減します。お話では1年で9割は自然回復するが1割が回復しきれず、支援が必要とのことでした。 公認心理師になる前に、ストレスについていろんな書籍を読み漁ったことがあります。その中の「幸福感の設定値理論」を思い出しました。幸福感の設定値理論によると、人の幸福感は一時的なストレスや困難によって低下しても、時間が経てば元のレベルに戻る傾向があります(この回復のスピードをレジリエンスと言っても良いのかもしれません)。逆に嬉しいこと(宝くじに当たったなど)も元のレベルに戻ります。この考え方を理解し、患者が前向きな気持ちを取り戻す支援が重要です。 ちなみに、設定値が戻りにくいイベントが、「通勤時間」と「介護」だったと記憶しています。 3. レジリエンス(回復力)の重要性 レジリエンス(Resilience)とは、困難な状況に直面しても適応し、回復する力を指します。がん患者においては、病気の受容や治療への適応を促す要素として重要です。家族や医療従事者が患者のレジリエンスを高めるためには、肯定的な言葉かけや小さ...