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学生も教員もタイパが大切 地域医療実習ミーティングに参加して感じたこと

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昨日は、佐賀大学の地域医療実習ミーティングに参加してきました。 今回のテーマは、医学生が地域で学ぶ8週間の実習について。かつては2週間ずつ、大学病院と地域病院に分かれていたものが、今年度からすべて地域での実習になったそうです。背景には、厚生労働省の方針転換と、地域医療を担う人材をより実践的に育てたいという大学の意図があります。 昔は佐賀記念病院の時に実習担当者として学生を教えていましたので、なんとなく状況はわかります。 熱男 会の冒頭で感じたのは、山下先生(臨床実習コーディネーター)の熱量! 教育の現場を本気で変えようとする姿勢、学生に「地域で生きる医療」を体験してほしいという思いが、言葉の端々から伝わってきました。 参加型の実習、つまり 「見学ではなく現場で動く」 ことが求められている――その空気を、会場全体が共有していたように思います。 やれるのか!? 一方で、クリニックの立場から考えると、現実的な課題も見えてきます。 教育には時間も人も必要です。 医師やスタッフが学生に関わるほど、当然ながらリソースは削がれますし、オペレーションの効率(タイパ)との両立も課題です。学生もタイパを考えていれば、教員もタイパを考えています。お互い忙しい…。 患者さんの待ち時間が延びたり、採血などの実技で安全面に気を遣う場面も出てくる。 私自身、会議の中ではつい「難しいのでは」と慎重な意見を述べた部分もありました。というより、難しいよね…を連呼していました。あぁ、ポジティブにいきたい…。 しかし、それでもやはり教育の力は大きいと感じています。 学生が現場に入ると、スタッフの姿勢が変わります。 「教える立場」に立つことで、いつもの業務にも新しい緊張感と誇りが生まれます。 また、実習を通して若い医師とつながることは、地域にとっての未来投資でもあります。 医師が足りない時代だからこそ、地域で育て、地域に根ざしていく流れを作ることが大切だと思います。 タイパ(タイムパフォーマンス:時間あたりの効率性) 江口医院としては、「タイパの良い教育」、つまり効率的で現実的な教育の形を模索したいと考えています。 たとえば、問診の補助や心電図の取得、電子カルテの記録補助(いわゆるシュライバー的な役割)など、患者さんの安全を守りながら学びが得られる方法。 そうした実践の積...

佐賀大学での在宅医療講義を通じて感じたこと — 地域医療教育に携わる想い

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先日、佐賀大学より在宅医療に関する講義の依頼を受け、当院院長が総論を担当しました。地域医療に携わるクリニックとして、大学教育に関わる機会は大変貴重であり、今回の講義を通して、私たちの取り組みや在宅医療の重要性を改めて確認することができました。 講義は訪問診療をテーマにした初めての内容で、所要時間は60分、スライドは約50枚を使用しました。対象は医学部の学生さんで、総論を中心に講義する形をとりました。 Q&A:講義の背景と準備 Q: 今回の講義を依頼された経緯は? A: 「大学経由で依頼がありました。これまでは開業医のキャリアパスについて講義することはありましたが、訪問診療をテーマに講義するのは初めてです。講義では、総論中心で、よくあるパターンを学生に伝えることを意識しました。」 Q: 準備はどのように行いましたか? A: 「在宅医療の重要なポイントや基本的な知識についてはAIに整理してもらいました。一方で、心理面や生活面、患者さんの医療以外のニーズに関しては私自身が加筆しました。AIの整理と私の経験を融合することで、学生が理解しやすい講義資料を作ることができました。」 Q: 学生の反応はいかがでしたか? A: 「質問は特にありませんでしたが、戸惑った表情で考え込む学生もいました。実際の患者さんとのやり取りや言葉にすると、興味を持ったようで、まなざしがこちらに向けられました。また、講義で提示したQRコードを数人の学生さんが写真に撮る様子もあり、関心を示してくれたことを感じました。」 在宅医療の核心:医療とケアの両立 Q: 学生に伝えたいことは何ですか? A: 「在宅医療は、医療だけでは成り立ちません。医療とケアの両立が非常に重要であり、場合によってはケアを優先する価値観を持つことも大切です。特に病院中心の教育を受けた学生さんは、医療ベースで頭が固まりがちです。『ケアが患者の生活や満足感に直結する』ということを理解してほしいと思います。」 Q: 具体的なケースはどのようなものですか? A: 「講義では、よくあるパターンを紹介しました。たとえば家族の介護疲れや、患者さんや家族が困惑しやすい状況です。こうした場面で、医療だけではなく、生活支援や心理面への配慮が必要であることを理解してもらうことが目的です。」 講義の中で感じたこと 講義を通して、...

2025年新型コロナワクチン定期接種のご案内 佐賀市にお住まいの皆さまへ

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「もうコロナは大丈夫じゃないの?」「今さらワクチンは必要?」 そんなご質問を、診察室でもよく耳にしますのでせっかくなのでブログでもまとめることにしました。 確かに感染者数が大きく報道されなくなり、日常も取り戻しつつあります。けれども実際には、 65歳以上の方や基礎疾患をお持ちの方にとって、新型コロナの重症化リスクは今も続いています 。 さらに、コロナにかかったあと「なんとなくだるい」「息切れが続く」といった後遺症で困る方も少なくありません。当院のスタッフでも息切れが気になる人もいました。 ちなみに、私は年に1回は打っています。打ったあとは気だるくなるので嫌なのですが…。開業医の先生の中には3ヶ月毎打っているって人もいました。仕事が休めないから!って凄い覚悟です。 もう何回も打ったし、ワクチンはもう良いんじゃない? 新型コロナは季節性インフルエンザと比べても、 高齢者における死亡率が高い ことが分かっています。 日本感染症学会らの見解によれば、2022〜2024年にかけてのデータでは、65歳以上で感染した場合の死亡率は0.29%(約300人に1人)に達していました。 一方、同じ期間のインフルエンザによる死亡率は0.05%程度にとどまります。 つまり、高齢者にとっては「コロナはインフルエンザの5倍以上の致死率」を持っているのです。 「若い人は軽く済むことが多いけれど、高齢の方は違う」。 この違いこそ、定期接種が推奨される最大の理由です。個人的な感覚でもワクチンを打っている方が死亡リスクは低くなる印象はあります。勿論、打ってない人でも回復が早い人もいますが、総じて言えばやはり死亡リスクは高い印象があります。 ワクチンの効果 ― 数字で見る安心感 今回の定期接種に用いられる新型コロナワクチンは、 重症化や死亡を防ぐ効果がしっかりと示されています 。 国内データによれば: 死亡予防効果:84% 重症化予防効果:80%以上 接種を受けた方では、受けなかった方と比べて、重症化・死亡のリスクが大幅に下がることが確認されています。 例えば、65歳以上でワクチンを受けていない方の死亡率が0.29%だったのに対し、接種を受けた方はそのおよそ5分の1以下に抑えられた、という報告もあります。 数字で見ると説得力が違いますよね。ただし、この数値な...

2025/09/11 ケースカンファを開催しました

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さて、今月のケースカンファです! 2025/09/04開催予定が、急な往診が入って11日開催となってしまいました。ところが当日も急な往診が入って、また延期かぁ~と思ったところ全員戻ってきての参加になりました。 医師3人、看護師5人のバトル禁止のまろやかケースカンファですよ! 今回のケースカンファで自分が得られた学びは、ざっとまとめると次の3点です。 多分、看護師さんは看護師さんの視点の違う学びがあるんじゃないかな? 長年関わった人の意見の重み 担当者の固定しすぎ功罪 家族以外の介護者の余力もモニタリングする こうした気づきは、普段の診療ではなかなか表に出てこないものです。ケースカンファに参加することで、チーム全員の思考や経験を一度に吸収できるのが大きな魅力です。参加希望の方は、ぜひ次回の開催に注目してください。 ケースA:延命治療をするかどうかで意見が分かれた場合 仮想のケースですが、患者さんは高齢女性で、延命治療を望むかどうかで家族内で意見が分かれました。妻は自然な経過で見守りたいと考え、子ども世代は積極的治療を希望しました。こうした状況では、医師としては、どちらかに肩入れしにくいのですね。基本的にはキーパーソンにお話をして、家庭内で話してもらう。ただし、 長年関わってきたケア提供者の意見 を「尊重」することが非常に重要です。 自分が感じたのは、「結果論として正しかったかどうか」は後から分かるとしても、その人がどう考えてその意見に至ったかを理解すること自体が、チーム全体の学びになるのではないかと考えました。もう少し意見をシェア出来ると良かったかもしれません。ここで得られたのが学び①、「長年関わった人の意見の重み」でした。 ちなみに、このご時世パターナリズムを使用した意思決定支援は医師は苦手になってきています。説明義務違反がバズっている今日このごろですが、最近の医師はインフォームド・コンセント、意思決定支援が身についているので、「あんたは入院!!」みたいなパターナリズムな言動は不慣れでストレスで、ハイリスクだと認識するんですよね。そこはコメディカルのみなさんも知ってほしいポイントです。 ケースB:本人の希望と介護者の負担のバランス 次に、本人は「好きにさせてほしい」と考えていたケースを想定します。しかし、介護者やヘルパーの負担は既に限界に近く、日常生活...

医者も看護師も受付もクールなホスピタル

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要約 医療機関の接遇は「医師やスタッフの性格」ではなく、制度・環境に大きく左右される 救急病院とクリニックでは役割も接遇の形もまったく異なる 患者側ができる工夫は「空いている時間を狙う」「できるだけかかりつけに時間内受診」「初診は電話では判断できないと理解する」 医療側も予約制・マニュアル化・DX化などで接遇改善を進めている 接遇は「誰か一方の努力」で解決できる問題ではなく、制度・環境・患者・医療者がそれぞれ理解と調整を重ねてこそ改善する なぜ「ぶっきらぼう」に見えるのか 「先生、なんか冷たくない?」「受付・看護師が気持ちを理解してくれない!」 医療機関の口コミあるあるですよね。 実際、医療者自身も「そんなつもりじゃなかったのに」と思うことが多い。短く答える、表情に余裕がない、説明が最小限——その背景には必ず理由がありまする。 一緒に働いてみて、この医者、この看護師、この事務の性格は最悪やなぁ!!って思うこと少ないんですよ。学生時代も皆優しかったですよ。そんな医療者がなぜ口調が悪いのか。職場に出て皆擦れてしまったのか…?! 友達に医療職いますよね?冷たいですか?基本は優しいと思うんです。そんな医療者がなぜ口調が悪いのか。 自分のしくじりドクター 深夜の時間帯。救急外来は満員。医者は一人、看護師も一人。救急車は2台。待合室では発熱の患者が10人以上待っている。 医師:「検査の結果、大きな異常はありません。今日はご自宅で安静にしてください!!」 患者:「え、それだけですか?薬は?説明は?」 患者:「まだですか?」 医師:「緊急性が高い人から順次見ています!!待ってて!!」 やらかして、患者さんや家族と言い争いになったことあります。疲れてメンタルケアまでできないときはそんな口調になるのですが、あとから言い過ぎたなぁと反省して自己嫌悪ってよくあるパターンです。 自分は「重大な病気ではない」と判断しているからこそ、最短の言葉で伝えている。だが患者にとっては「雑に扱われた」と感じてしまいますよね。 この時間に来たなら相当に不安が強い。その不安の元はどこか…まで気が回れば良いのですが、深夜で救急車も来ていると不安のケアまでは手が届きません。医療者からすると…「不安で人は死なない」から。でも、患者さんは「死ぬかも?」と思っているこ...

喧嘩勃発!?事務長なんかクリニックから出ていきやがれ、こんにゃろめ!!

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今回は(も?)経営面のお話で患者さんにはあまり興味がないところかもしれませんね。まぁ、医療機関の裏話と思って見て頂ければありがたいです。 この時代は医療機関に取っては厳しい時代です。 2025年上半期の医療機関の倒産は35件となり、 過去最多 のペースで推移している。物価高や人件費などの高騰による収益悪化や経営者の高齢化、建物の老朽化などを背景に事業継続を断念する事業者が相次いでおり、2025年の倒産件数ははじめて70件に達する可能性がある。 帝国データバンク   どれだけ丁寧に診療をしても、財務や人事労務の数字を直視せざるを得ない瞬間が必ずやってきます。佐賀市のような地方都市にあるクリニックでも例外ではありません。ここで頼りになるのが「財務コンサルタント」や「経営企画のサポート」ですが、本当に必要なのでしょうか。今回は自分の体験をもとに考えてみたいと思います。 コンサルタントの定義 ―臨床ではなく経営のサポート ここで言う「コンサルタント」とは、臨床的なアドバイスではなく、 財務・経営企画・人事労務 といった分野を助けてくれる存在です。 自分が依頼しているのは、主に以下の領域です。 財務三表の解析(年次データを整理し、比較・トレンドを提示) 行政資料の読み込みと、そこから導かれるクリニックへの示唆 経営判断の補佐(例えば賞与基準や昇給幅の相談) 内部資料のダブルチェック 時に人事労務に関する助言(昇給の基準、賞与の額の第三者評価) 銀行などの外部機関との付き合い方 厚生局への提出資料についての相談 つまり「事務長を外部にアウトソーシングしている」イメージに近いですね。小規模クリニックでは専任の事務長を雇うリソースがありませんから、地域で共有する感覚です。 ってことで、事務長なんかクリニックから出ていきやがれ!って訳です。 なぜコンサルを導入したのか ―院長の時間を取り戻すために 数字を具体的に出すのは難しいのですが、 院長の時間を減らせる ことが最大のメリットです。 例えば: 財務三表を読み込み、他のクリニックや平均値と比較 → 2〜3時間 行政資料の読み込み → 60〜90分/月 これらを一人でやると、あっという間に半日が消えます。しかも臨床に集中すべき時間が削られていく。ここをアウト...

クリニックはなぜ時間外診療をしてくれないのか?

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「あと10分待ってくれたら、着くので開けていてくれませんか?」 「18時半になら行けるのですが…」 「(17:30に)あと15分でつきます。(着かない)」 当院にもこんなケースは時々あります。受診したい気持ちや困っていることは実際分かっていて対応したい気持ちもあるのですが…。 病院における「時間外診療」は、多くの人にとってありがたい仕組みです。特に急な発熱やケガにも対応してもらえます。しかし、ほとんどのクリニックは時間厳守で閉まってしまいます。 なんて優しくない病院って言われそうですが、これって制度設計と報酬のバランスが崩れているために「割に合わない仕組み」になっているのです。 一般の方々から見れば、「仕事が忙しいから大変」「医療は公共サービスだから夜でも空いていてほしい」という感覚があるでしょう。ですが、医療も人が働いて成り立つサービスです。人件費、家庭生活、疲労の持ち越し――。これらの現実を抜きに「時間外を開けろ」と言うのは、いわばスタッフにサービス残業を強要するのと同じことになってしまいます。 以下では、実際の人件費や診療報酬の数字を使いながら、なぜ時間外受付が採算に合わないのかを具体的に見てみましょう。 1.時間外の「残業代」を数値で考える 医療従事者を時間外に残すには当然コストがかかります。ここでは仮に医師1名・看護師1名・事務1名が残る場合の人件費を考えます。 最新の 厚生労働省統計(e-stat) によると、全国平均で概算すると以下の時給水準です。 医師:約4,500円/時 看護師:約2,000円/時 医療事務:約1,200円/時 合計で 7,700 円/時 。これが、最低限かかる時間外労働の「給与コスト」です。 そして残業代としては通常25%割増が求められます。すなわち、 7,700円 × 25% ≒ 2,000円/時 が上乗せされる形になります。 では、時間外診療で医療機関に入るお金はどうでしょうか。現在の診療報酬体系では、時間外加算は 850円 に過ぎません。つまり、患者1人あたり850円増えるだけ。 単純計算すると、2,000円の割増を回収するには 最低2.2人の患者 が1時間に来院しなければ赤字です。もしくは受付、診察、検査、説明、処方、会計の全てを25分以内で済ませる必要があります。(本当はスタッ...