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医療のコンビニを目指す江口医院がセイコーマートをおいしくいただきます! 第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 2025

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北海道で開催された「日本プライマリ・ケア連合学会」。 ネットで開催していることを突然知り、訪問診療の車の中で参加登録、クレジットカードで支払い、遠隔で領収証をプリントアウトして、ひーひー言いながらなんとか参加しました。 その特別企画のひとつに、異色ともいえる講演がありました。登壇されたのは、北海道を代表するコンビニエンスストアチェーン「セイコーマート」の株式会社セコマ会長、 丸谷智保氏 。めちゃくちゃ面白い! 講演タイトルは、「都市と郡部、『そこ・そこ』にふさわしいサービスとは」。 医療とは直接関係のないように思えるこのセッションが、私にとってはもっとも“医療的”で刺激的な内容だったと感じました。 セコマはなぜ「地域インフラ」となれたのか? セコマは、北海道に1090店舗(2025年3月時点)を展開し、道内人口カバー率99% という驚異的なネットワークを誇ります。都市部だけでなく、過疎が進む郡部にも店舗を構え、「この店しかない」という地域も少なくありません。住民にとっての 生活の“最後の砦”になっているとのこと。 この状況は、 医療の現場、とくに地域医療・へき地医療が抱える課題と非常に似ている と感じました。 (引用:漫画「ヴィンランド・サガ」) 「一つひとつのニーズに応える」という矛盾 セコマの戦略は、商品ラインナップや営業時間、物流ルートなどを 地域ごとに柔軟に調整すること にあります。 IR情報 を後ほど見てみても、社の強みを 「サプライチェーン」 としているようです。 ただ、それは当然ながら オペレーションの複雑化 を伴います。 「一つひとつに応えたい」けれど、「何でも屋」になってしまえば持続可能性が失われる。このジレンマは、 医療にもそのまま当てはまる問題 です。 江口医院でも、「医療のコンビニエンスストアでありたい」と思いながら、実際は 保険診療の制約 により、自由度が限られています。価格を自分で決められず、個別対応のコストも患者に転嫁できない――これが「便利な医療」が広がらない一因です。 医療と物流 物流の話になると、一部、医療との共通点が見えてきます。 セコマは、片道配送にならないように 袋に商品を入れて戻す 工夫や、 自社製造+外部委託のハイブリッド体制 で、効率と柔軟性を両立しています。 江口医院の訪問診療...

“良い臨床家を諦める”という覚悟 ──佐賀大学総合診療部同門会に参加して

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土曜の早朝は訪問診療、午前は外来へ。そして昼過ぎ、歩いてマリターレ創世佐賀へ向かいました。5分程度の距離なのですが、一瞬で汗だくになりましたね。疲れてはいましたが、この日の「佐賀大学総合診療部同門会」はとても楽しみにしていました。私を育ててくれた医局や先輩方。今も現場の最前線で奮闘する仲間たち。その姿に触れておきたいと思いましたし、課題の共有ができれば嬉しいなと考えつつ参加しました。 同門会では、研究の一般講演と、佐々木先生の特別講演がありました。本村先生の非感染性炎症性疾患についての研究も臨床にすぐに応用できそうな内容で刺激的でした。また現在当院にも関わっていただいている香月先生と、東邦大学総合診療部の佐々木教授の講演もありました。  香月先生の発表では、 大学での研究をチームで行う というお話。研究と臨床、研究と学生、研究と…と様々なポイントでコラボレーションしつつ、研究マインドを育てているとのことでした。そのかいもあって英語の論文は毎年20本発表できている、佐賀大学の中でもまずまず発表できている方だとのことでした。 「一人一症例にに取り組むことを課題としている!」とプレッシャーが会場内に響き渡りました(笑)。その積み重ねが教育にも、研究にもつながっていく。研究者としては、若手に学位取得の道を提示しながら、チームで支える姿勢を強調されていたのがとても香月先生らしく、背筋が伸びる思いでした。  その後の講演で登壇されたのが、東邦大学の佐々木先生でした。 タイトルは 「なぜ大学で総合診療をやるのか」 。 一番、なるほどと共感したフレーズは、  「私は“良い臨床家であること”を諦めた。」  この覚悟はすごい!ことだと思いました。大学病院より市中病院のほうが総合診療医の能力は正直生きるんですよね。臨床能力って言うのはある意味医師のプライドの一つではあるのですが、割り切れるところが心より凄いと思いました。いや、ジレンマを感じているとのことでしたので、割り切れてないのかもしれませんが。 大学病院という環境で、研究・教育・臨床の“ジャグリング”を続けるなか、自分自身の臨床力が低下していく実感と向き合いながら、それでも「育てる」ことを選び続ける──。これは並の覚悟ではありません。ただし、教育のスキルっていうのは、医師のキャリアでいうと汎用性が乏しいんですよね(現...

じわーりと血圧が上がってきたあなたへ(トクホじゃダメダメ)──安心して続けられる治療と生活サポートを

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「健康診断で血圧が高いと言われた」「最近、だんだん血圧が上がってきている」と感じている40〜60歳の方に向けて、高血圧症の基礎知識と当クリニックでの治療・サポートのポイントをお伝えします。 (引用:漫画「GIANT KILLING」) 1. そもそも高血圧って何? なぜ放っておけないの? 高血圧は、血管にかかる圧力が高い状態が続く病気です。健康診断で「血圧が高い」と言われたことがある方は多いでしょう。男性では40〜50歳頃から、女性では閉経後の50〜60歳頃から上がりやすくなるのが統計的にも知られています。 (引用:高血圧症ガイドライン2019) 「自覚症状がないから放置してもいいのでは?」と思うかもしれませんが、実は高血圧は脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎硬化症などの重篤な病気のリスクを大きく上げる、怖い病気なのです。特に、これらの病気になると元の生活に戻ることが難しくなってしまいます。 高血圧は「沈黙の殺人者」と呼ばれ、症状が出にくいものの、確実に体に負担をかけています。だからこそ、しっかりと治療と生活習慣の改善を行うことが非常に重要です。 私自身も内服していますよ。自己判断ですが、睡眠時無呼吸症候群と遺伝的素因もあって30歳代から内服しています。慣れてしまうと飲むのは面倒でもないですね。最近ではサプリを飲むこともありますので内服自体のハードルは低いです。(食事運動療法から逃げているとも言える…) 2. 高血圧のリスク、タバコより怖い? 皆さんご存じの通り、タバコは健康に悪いですが、実は高血圧はタバコよりも死亡リスクが高いと言われています。血管に負担をかける点で共通し、脳卒中や心臓病の原因になります。 当クリニックでは、このようなデータやリスクを患者さんに分かりやすく示し、内服治療や生活習慣改善のモチベーションにつなげています。 (引用:高血圧症ガイドライン2019) 皆さん驚かれるのですが、意外と高いのは運動不足なんですよね。散歩しましょう! 3. 生活習慣の改善でどれくらい血圧が下がるの? 「薬は飲みたくない」「まずは生活習慣を見直したい」という方は多いです。実際、生活習慣の改善で血圧は下がります。 減塩 :日本人の平均食塩摂取量は約10〜11gですが、これを半分以下の4.6gに減らすと、収縮期血圧(上の血圧)が約5mmHg、拡張期血圧...

完璧じゃなくて大丈夫——糖尿病と上手につき合うために知っておきたいこと

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糖尿病と診断されて不安な方へ。失敗してもまたやり直せる。医師としての経験と生活者としての実感から、完璧でなくても続けられる糖尿病とのつき合い方をお伝えします。 「糖尿病と診断されたけど、何から始めたらいいの?」 これは、外来で本当によくいただく質問です。 糖尿病と向き合うって、言葉では簡単ですが実際はとても難しいです。 生活を変えなきゃいけないと言われても、何から手をつけたらいいのか分からない。 正直、私自身も「医者として知っていても、完璧にできているか」と言われたら、自信はありません。正しい知識があっても出来ないことって沢山ありますよね。 ただ、たくさんの患者さんと一緒に歩んできた経験から言えるのは—— 「完璧じゃなくてもいい」「失敗を糧にして続ける」ということです。 今回は、糖尿病と診断されたばかりの方に向けて、医療の現場で実際に話している内容を、少し丁寧にお届けします。 ■ 糖尿病の「怖さ」は、じわじわ進むこと 「血糖値が高いって、そんなに悪いことなんですか?」 そう思う方もいるかもしれません。 糖尿病が怖いのは、 血管にダメージを与え、動脈硬化を進めること です。 血管の老化が早まり、心筋梗塞や脳梗塞といった大病につながっていきます。 糖尿病を放置した場合、 寿命が10年ほど縮まる というデータもあります。 70歳でぽっくり亡くなる、というイメージを持つ方もいますが、実際には 60歳ごろに心筋梗塞を発症して、それから10年の闘病生活 を経て、70歳で亡くなる。そんな流れが多いのです。 しかも、糖尿病は初期には痛みも不調もない人もいます。(糖尿病性神経障害で疼痛やしびれに苦しまれている方も思ったより多いです。) だからこそ「今は大丈夫」と思ってしまい、対策が遅れる。 この“静かな進行性”が、糖尿病の厄介なところです。 ■ よくあるパターン:「糖尿病に良いものを食べれば改善する」という誤解 よくあるパターンで、「テレビで見た〇〇が糖尿病にいい」と聞いて、それを一生懸命取り入れる方がいます。 サプリや特定の食材で血糖を下げようとする。でも、効果が出た方はごく一部です。 糖尿病の改善には、「何を食べるか」よりも「 どれだけ、どう食べるか 」が大事。 甘いものをゼロにする必要はありません。 食べすぎないこと、カロ...

横文字ばっかり!トランスプロフェッショナル!?アドバンスド・エッセンシャルワーカー!? 第7回 在宅医療連合学会 in 長崎 参加報告(後編)

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〜体験記のような、ちょっとした決意表明のような〜 学会の報告、と言いつつも、今回は“体験記”に近いかもしれません。 トランスプロフェッショナル=飛車が龍に成る 在宅医療の現場から見たとき、今回の学会で刺さった話題は、RPAやICTなどのワクワク系話題も数多くありましたが、その一方、静かに胸がざわつくような話題もありました。キーワードは「教育」──特に“ トランスプロフェッショナル ”という考え方に、改めて大きな意味を感じています。 たとえば、医師が看護師の仕事を少し担い、看護師がリハビリや介護に関わる。リハ職が訪問で看護的視点を持つ。こうした垣根の越境は、大病院ではなかなか体感しにくいものかもしれませんが、地域ではすでに“日常”になりつつあります。人口減少が進む今、役割の壁を越えていくことの大切さを、現場が先に感じ始めているのかもしれません。 実際、自分は採血もしますし、膀胱留置カテーテルを入れたりもします。たまに、ですがエンゼルケアをしたりもします。それって病院では基本は看護師さんの仕事ですよね。 教育の場にも、その風が吹いているようでした。講義に「トランスプロフェッショナル」の視点を組み込み始めている学校もあるようで、いずれ地域での連携や働き方が“教育の標準”になる日も近いのかもしれません。 若い人だけではなく、中年の専門家も「自分の仕事じゃねぇ!」「新しい仕事なんて無理!」なんて言わずにちょっとだけチャレンジしてみませんか?飛車が龍に成るみたいじゃないですか!かっこいい…! それにしてもトランスプロフェッショナル…って分かりにくですよね。日本語で言えば、横断的知識を備えた専門家。矛盾した言葉に感じますね。Generalist with Subspecialty…またも英語…表現困難。受け売りですが、西洋の学問は細分化、専門化するほど専門家して評価されます。一方、東洋の学問はいかに統合出来るかも問われるとのことです。そういった意味では東洋の学問の一部を教育に取り入れることは有用かもしれません。

在宅医療で情報共有って、そんなに難しいの?——現場で感じる“質の違い” 第7回 日本在宅医療連合学会大会 in 長崎に参加して

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在宅医療連合学会大会 in 長崎に参加してきました。近いので当院スタッフも一緒に参加してきましたよ。プチ旅行な気分です。表の情報と裏の情報を収集してきました…(にやり)今回は在宅医療連合学会で手に入れたキーワードに対しての感想や考察ブログです。 在宅医療の現場で「情報共有が大事だよね」と言うのは簡単ですが、実際にやってみると、これが想像以上に難しい。いや、「難しい」というよりも、 そもそも“情報”の質がバラバラ なんですよね。 たとえば—— どの職種に、どんな情報を、どのくらいの粒度で伝えればよいのか。それは状況によって変わりますし、記録者の視点でも変わる。口頭で済む場面もあれば、文章や画像、動画が適している場面もある。そして当然ですが、「誰が記録するのか」「どこまで書くのか」「その作業が本当に現場にとって負担でないか」——ここも重要な論点です。 在宅医療の難しいところは、病院と違って医師は全てのチームリーダーではないんですよね。介護士さんに情報の共有を指導することは出来ず、「お願いベース」なんですよね。 また、情報共有で思い出すのは、病棟勤務時代のやり取りです。 医師「ちょっと、XXをOOさんに点滴しといて~」 看護師「……すみません、それは指示簿に書いてください」 この一連の“あるある”は、在宅医療でも形を変えて繰り返されます。 医師「チャットに書いたよ!」 看護師「いえ、それは正式に訪問看護指示書へ記録をお願いします」 といった具合です。 つまり、情報共有とひとことで言っても、その 質・伝達経路・正式性 がぐちゃっとしていて、現場は常に揺れ動いているわけです。 「これは共有すべき?」「これは誰宛?」「どこに書くのが正解?」——こんな問いを、在宅医療に関わる人たちは日常的に繰り返しています。 ツールを食べて、咀嚼して、育てる——SlackとLINEの併用 そんな中、当院で比較的うまく回っているのが、 SlackとLINEの併用 です。 Slackは、スレッド機能とチャンネル設計が秀逸で、情報の流れを視覚的に把握しやすいのが強みです。特に「これは誰宛なのか」「どこで議論が進んでいるのか」が見えやすく、チーム医療における“見える化”には向いています。ただし、医療業界全体では普及率がまだまだ低め。 一方、LINEはもう説明不要なほど普及してい...

「10人に1人が“もったいない医療”を受けている?」 ―医療費を考える時代の“かしこい選択”とは―

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はじめに:医療の「無駄」って、誰が決めるの? 「うーん、その検査(薬)要らないと思うよ?」 病院でそんなことを言われたら、ちょっと戸惑うかもしれません。でも今、世界中で注目されているのが「Low-Value Care(LVC)」――つまり「医療としての価値が低い診療」の見直しです。 「医療のムダ」と訳されることもありますが、その言葉には誤解も多く含まれます。今回は、最新の日本の研究をきっかけに、「かしこい医療の受け方」について一緒に考えてみましょう。 論文紹介:「無駄な医療」は誰がやっているのか? 2025年6月にJAMA Health Forumに掲載された研究では、全国のプライマリ・ケア(かかりつけ医)を対象に、10種類のLVC(医療としての価値が低いとされる行為)の実施状況を調査しました【 Miyawakiら, 2025 】:全文無料で読めます:ただし英語。 結果は以下の通り。 対象となった250万人の患者のうち、およそ10人に1人が少なくとも1つのLVCを受けていた。 LVCのうち、上位5つの医療行為だけで全体の95%以上を占めていた。 LVCの約半数は、全体のわずか10%の医師によって提供されていた。 さらに、以下のような傾向も報告されています。 高齢の医師や専門医でない医師によるLVCの提供が多い 患者数が多い医師ほど、LVCの頻度が高い 西日本での提供率が高め こうしたデータは、医療資源の無駄遣いが特定の医師・条件に偏っている可能性を示唆しており、LVC削減の効率的なターゲティングを可能にする材料とも言えます。 個人的には、90%の医師はまともってことは2人の医者が同じようなことを言えばだいたい正しいってことよねってことで安心しました。西日本で多いのは何でだろう? 具体的な「LVC」の中身:実は、身近なものばかり では、その“価値が低い医療”って、一体なんなのでしょうか? 論文で対象となったLVCのうち、頻度が高かった上位5つは以下の通りでした: 風邪(上気道感染症)に対する去痰薬(例:カルボシステインなど) 風邪に対する抗生物質 腰痛に対する注射(神経ブロックやトリガーポイント注射など) 風邪に対するコデインなどの鎮咳薬 腰痛に対するプレガバリン処方 ...