在宅医療における排泄ケアと訪問看護の最新動向 — 日本在宅医療連合学会誌 Vol.6 No.1 を読んで

はじめに

在宅医療の現場では、「排泄ケア」や「訪問看護」の質が患者のQOL(生活の質)に大きく影響します。今回は、日本在宅医療連合学会誌 Vol.6 No.1 に掲載された論文を読み、その内容から見えてきた課題と改善策について考察しました。

要点

  1. 排泄ケアプリントをゲットせよ
  2. 退院直後は特別訪問看護指示書で自宅の長期療養をサポート
  3. デジタルモニタリングは有用だがプライバシーへの配慮をどう克服するか
  4. 排泄評価にポータブルエコーを活用せよ

1. 在宅認知症高齢者の排泄ケア研修の効果

概要

介護職員25名を対象に、排泄ケアの自己効力感と実施状況を評価したところ、自己効力感は有意に向上したものの、実施状況には有意な変化は見られませんでした。特に、「信頼を得た支援者として関わる」「排泄の困りごとを傾聴し共感する」という項目での向上が目立ちました。

この論文は、排泄ケアの学習シートが秀逸です(P3)。医学生、研修医の先生方も一度目を通しておくと良いと思います。


疑問が残るのは、自己効力感は向上したのに、実施状況が改善しなかった理由でしょうか。実施が進まない原因(時間や人手の不足など)があるのでしょうか。まぁ排泄ケアは患者さん、利用者さんのニーズありきなので、自信が付いたから増えるものでもないような気がします。

2. 訪問看護の回数と入院・施設入所の関係

概要

訪問看護開始2週間での訪問回数が多いほど、入院や施設入所のリスクが低下することが示唆されています。具体的には、訪問回数が多いほどオッズ比が低く、特別訪問看護指示書の有効性が確認されました。初期の2週間がうまくいくと「長期的」な入院、入所が減るという内容です。

訪問回数の増加と効果の因果関係について、環境調整、信頼関係、ケア指導が影響しているのではないかと考察で指摘されています。個人的には本人や家族の不安感や信頼関係の構築も効果があるのではないかと思います。

【NG】対象者が自宅患者か、施設患者かがすぐには読み取れませんでした。アウトカムを入院、入所としているので自宅の可能性が高そうですが。

特別訪問看護指示書の必要性を感じる論文ではあります。対費用効果も2週間の特別訪問看護指示書によるサポートと長期的な入院、入所コストなので感覚的には採算があうのではないかと考えています。

3. デジタルケアマネジメントとIoTの活用

概要

介護支援専門員がIoT機器(人感センサー、開閉センサー、環境センサーなど)を用いることで、問診だけでは把握しきれない情報を取得し、ケアプランに反映させるという内容です。特に、食事や排泄回数、昼夜逆転のモニタリングが有用とされました。

これも現代的な論文ですね。パナソニック社がサポートしているようです。IoT機器で詳細にモニタリングするのに、プライバシー問題への配慮が問題になる人もいるかもしれません。データの匿名化や、一定期間のみ記録する仕組みも良いかもしれませんね。

残念なのは、導入コストや維持費用についての具体的な説明が不足していました。

4. 訪問看護師によるポータブルエコーの活用

概要

今流行りのポータブルエコーです。最近はWebセミナーでもよく見る話題です。(…ポータブルエコーのステマか!?)訪問看護師がポータブルエコーを用いて膀胱や便秘の評価を行う事例が紹介されていました。導入と研修までのフローが書かれています。短期間で習得できる研修を実施しているのは素晴らしいですね。

一方、看護師によるエコー評価は診療報酬の対象外であるため、継続的な導入には課題があります。

極論まとめ

  1. 排泄ケアプリントをゲットせよ
  2. 退院直後は特別訪問看護指示書で自宅の長期療養をサポート
  3. デジタルモニタリングは有用だがプライバシーへの配慮をどう克服するか
  4. 排泄評価にポータブルエコーを活用せよ

参考文献:日本在宅医療連合学会学会誌 Vol.6 No.1

https://www.jahcm.org/assets/images/academic_journal/25_vol.6-1.pdf

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