佐賀市の医療現状と江口医院の取り組み - 地域医療構想に基づいた効率的な医療提供とは?
地域医療構想とは?
地域医療構想は、日本各地の医療ニーズを正確に把握し、地域の医療機関がそのニーズに応えられるように機能を適切に誘導する取り組みです。公的医療機関の場合、医療方針の変更も比較的行いやすいですが、日本の多くの医療機関が私的な経営形態であるため、診療報酬の改定や地域ニーズの公開によって、誘導を行う必要があります。
今回のスライドから読み解けるもの
2040年に求められる医療機関機能
- 高齢者救急の受け皿と地域復帰を支える機能として、地域包括病床のような役割が求められています。搬送するのを原則とせず、医療機能をアウトリーチさせることで在宅の現場で治療を行うことも求められると思われます。
- 在宅医療の提供で、地域の生活を支えるクリニックの役割が重要視されています。
- 急性期の救急医療の提供は、佐賀では大学病院や好生館が担う役割と考えられます。
- 医師派遣機能と医師の教育も今後の必要な機能として挙げられ、広域的な医療提供が求められています。
基本的な地域医療構想の方向性
- 地域全体を俯瞰した構想で、85歳以上の高齢者救急や在宅医療の増加に対応。
- 医療機関機能の再編・集約化が進み、効率的な医療提供体制が構築される見込みです。再編・集約化というと聞こえは良いですが、効率化していない病院や病床が空いている病院、クリニックは淘汰されるという意味でもあります。
- デジタルトランスフォーメーションや働き方改革を通じた生産性の向上も重要な目標とされています。
在宅医療の体制強化
都道府県での地域の協議調整が進み、より実効性のある体制整備が求められています。また、オンライン診療やICT活用による効率化も推進されています。当院では在宅患者が月に120名を超えるため、在宅医療提供クリニックとしてある程度役割を果たしていると考えます。
今後のクリニック経営と地域医療
- 医師が75歳や80歳で引退すると仮定した場合、診療所がなくなる市区町村が増加する可能性があります。(75歳で引退を仮定する意義には疑問が残ります)
- 地方都市部での高齢者増加とクリニック減少が懸念され、特に田舎の高齢者医療の厳しさが課題とされています。
- 診療報酬点数の細分化やかかりつけ医の1号・2号機能の区別も予想され、特定疾患管理料や生活習慣病管理料などでの誘導も考えられます。
その他
- 地域医療の強化は不可避であり、テクノロジーの進歩により入院と在宅の役割分担が変化する可能性があります。
- 高齢者の独居や介護負担の増加も背景に、医療・介護提供体制の組み替えが求められています。
佐賀市の人口動態と医療ニーズ
佐賀市の生産年齢人口は1995年にピークを迎え、その後減少傾向にあります。総人口は2040年に20.2万人に減少し、2070年には13.8万人にまで落ち込むと予測されています。しかし、政府統計がしばしば楽観的な見通しを示すため、実際の人口減少はより厳しい可能性があります。このような人口動態の変化は、佐賀市内の医療ニーズに直接影響を及ぼし、高齢者医療や在宅医療の需要が高まると予想されています。
江口医院の取り組み:ICTと在宅医療の推進
江口医院では、地域医療構想の一環として、ICTやデジタルトランスフォーメーション(Dx)の活用を積極的に進めています。入退院支援のスムーズな実現を目指し、AI導入を含むさまざまなツールを導入したいとも考えています。また、在宅医療に対応する看護師のレベルアップと増員を進め、高齢者の医療ニーズに応える体制を整えていきたいと考えています。
江口医院の在宅医療の提供体制は、全国の平均値・中央値と比べても上位に位置しており、月間の訪問患者数に基づく医療機関別でも高位にあると思います。連携病院としては、国立佐賀病院や神野病院、佐賀記念病院、好生館、佐賀大学病院などの主要医療機関が挙げられ、現在も多くの患者さんが紹介、逆紹介を受けております。
高齢化社会における効率的な医療提供の必要性
医療従事者のリソースが限られる中で、スタッフは日々高い負荷のもとに働いています。しかし、地域医療ニーズに応えるため、江口医院ではAIやICTの導入を検討し、スタッフの業務負担軽減と医療の質向上に努めています。特に高齢者に対するICTの適応度を見極めつつ、医療のデジタル化を推進しています。
また、医療の効率化が課題となっており、医療の質を高めながら、患者と直接関わる時間の最適化も検討しています。今後も、医療効率の定義やその社会的な意義の変化に注意を払いながら、佐賀市の高齢化に対応していきたいと考えています。
香取照幸氏の追加資料
厚生労働省の資料を見ると香取先生はいつも批判的かつ創造的な発言をされていると感じます。香取先生の資料を踏まえて、個人的なポイントは2つあります。
1.在宅医療、高齢者医療のニーズが増大
入退院支援はDx、AIを用いて、電話などの同期型コミュニケーションではなく、チャット型の非同期コミュニケーションに変わっていくと予測します。ただし、個人情報管理のハードルを超える必要があります。しかし、ここにコストを避けるほど日本の医療に余裕はないと思われます。個人情報管理をどこまで妥協できるかという印象もあります。
高齢者救急をいかに効率化しつつ支援できるか。高齢者救急の受け皿となる地域包括病床の整備が中心となっています。しかし、地域包括病床は介護度が高い患者さんが溢れており、看護師のマンパワーが介護に消費されているのが実情です。その状況で高齢者救急を受け入れても悪評が立つため、結局高度急性期に流れているというのが実情ではないでしょうか?ただし、高度急性期のバックベッドとしては以前よりスムーズに流れている印象です。
入院関連障害(Kenneth E at el. Hospitalization-associated disability: JAMA. 306(16):1782-93.2011)というものもあるため、一定の高齢者救急を在宅医療で対応することも求められると思います。しかし、介護の方も余力がないため、難しい時もあります。
2.D to P with Nによるオンライン在宅医療サポート
医師はクリニックに居ながら、看護師が患者さんのところに訪問して診察し、オンラインで医師と併診するスタイルです。これには医師と看護師の身体診察結果が一致する必要があります。また、フィジカルアセスメント能力も必要です。
江口医院が目指す地域医療の未来
佐賀市の地域医療構想に参考にしながら、江口医院は地域のニーズに合った医療提供を目指しています。AIの導入によるデジタル医療の充実、在宅医療の提供拡大、そして連携病院との協力体制の構築を通じて、地域住民の皆さまの健康と生活の質向上に貢献してまいります。
厚生労働省資料
新たな地域医療構想について(2024/10/17)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001316780.pdf
第10回新たな地域医療構想等に関する検討会に向けての意見(香取照幸氏:一般社団法人未来研究所臥龍 代表理事 )
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001317501.pdf
コメント
コメントを投稿