難病患者訪問従事者など研修会の参加報告 2024/12/03
難病患者の現状と課題
好生館江里口先生からは、脳卒中患者の救急対応や外来診療に追われる中で、難病患者の診療が後回しになる現状が報告されました。特に、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の対応に時間がかかり、訪問診療や在宅看護の支援が重要とされています。
難病の疫学と地域性
- ALS患者:全国平均で10万人あたり1~2人が発症。佐賀県では約72名の患者が確認されています。有病率は佐賀が高いと聞いています。また、患者の高齢化が進んでいます。
- プリオン病患者:全国では26万人に1人の発症率ですが、佐賀県は8万人に1人と高く、注目されています。
ALSの特徴と診療ポイント
ALSは運動神経細胞の変性が主な特徴で、感覚異常はありません。しかし、患者の約20%が認知症を併発します。この認知症は記憶障害ではなく、実行機能障害や注意力低下が主症状です。また、患者が発語困難となるため、診断時にはコミュニケーション方法を検討する必要があります。
診療の現場では、以下の点が強調されました:
- 診断後の生活支援:身体障害者手帳や障害年金の手配、介護保険の利用。
- コミュニケーション支援:声の録音や適切なツールの選定。
- 栄養・呼吸管理:嚥下機能低下に応じた対応の検討。
新たな治療法と展望
ALSの治療は進展を見せています。今年、新たな治療薬が承認されました。
- エダラボン:特に嚥下障害がある患者に効果的で、生存期間を延ばす可能性があります。
- SOD1遺伝子変異に対する薬剤:遺伝子診断を経て、髄腔内に薬剤を投与する治療法が実用化されつつあります。これにより、神経細胞への悪影響を抑制する効果が期待されています。
ケースカンファ
本研修では、現場での課題や工夫、そして難病患者やその家族との関わりについて具体的なケースを交えながら深く議論されました。
患者や家族が病気を受容できておらず、現状とのギャップに苦しむ姿も共有されました。ある参加者からは、「こちらから説明をしても受け入れられない場合が多い」との声もあり、病気の受容に関する課題が浮き彫りとなりました。
介護保険を活用しながら訪問介護やショートステイを利用していますが、ご家族との関係が問題となっています。特に、家族が患者を「なぜできないのか」と責めてしまうことで、患者の精神的負担が増しているとのことでした。患者や家族は現実と理想とのギャップに苦しんでおり、職場復帰や新たな仕事への挑戦についても現実的な選択肢を受け入れられていない状況が見受けられました。
医療従事者と多職種連携の重要性
研修では、医師や看護師、ソーシャルワーカーがそれぞれの役割を果たしながら、チームとして患者を支えていく必要性が強調されました。特に、患者の本音を引き出す場として、看護師やソーシャルワーカーの重要性が指摘されました。医師が疾患の進行や医療的介入のタイミングを管理しつつ、他職種が患者や家族の心のケアを担う形が理想的だと感じました。
社会的処方の実践
研修では、患者の趣味や興味を活かす「社会的処方」の取り組みも紹介されました。例えば、音楽が好きなALS患者の趣味を支援し、患者が自分の存在意義を感じられるような支援が行われています。このような取り組みは患者のQoL(生活の質)向上に寄与すると同時に、医療従事者の負担軽減にもつながるとのことでした。
地域全体で支える仕組み作り
研修の最後には、「地域全体で支える仕組みを作ることの重要性」が繰り返し語られました。多職種間での情報共有や連携が円滑であることはもちろん、地域住民や関係機関と協力しながら、患者や家族を支えるネットワークを構築する必要性が強調されました。
難病患者の意思決定支援(難病に限らないが…)
医療者と患者・家族の目標のズレ
医療者と患者・家族の目標がずれることは珍しくありません。例えば、家族が「可能性が低くても最善の治療を目指したい」と希望する一方で、医療者は現実的な選択肢を提示しようとする場合はよくある話です。医療者としては、現実を踏まえた多面的な評価と情報提供を行い、その中で患者さん自身が最終的に選ぶべき道を考えるべきだと感じました。
意思決定支援のポイント
意思決定支援において重要なのは、患者さんや家族の「真のニーズ」を深掘りすることです。例えば、「自宅に帰りたい」という希望に対して、「自宅で何をしたいのか?」を具体的に尋ねることで、現実的に叶えられる選択肢を模索できます。意外と自宅以外でも出来ることを自宅でしか出来ないと思っていることもあります。本当に自宅でしか出来ないことがあるならば、デメリットも提示した上で支援すればいいと考えています。この時に大切なことは、家族も医療関係者も持続性を意識することです。患者さんのためにと頑張っても一時的だったり、他の多くの患者さんに迷惑をかけたりします。
意思決定支援は非常に時間がかかる業務です。また、心理的サポート、地域の介護、医療リソース(限界)の把握、行政による支援の把握など専門性も問われています。しかし、この業務に対する診療報酬はなく、悩ましく思っています。
また、病院に勤める医療提供者は医療行政の都合上、退院時期という大きなプレッシャーがあります。それまでに意思決定をしないと支援が不十分なままで退院時期を迎えてしまいます。ですので、早く受容し、意思決定してもらわねば!という意識になってしまうのは致し方ありません。ただし、その焦燥感は患者さん、家族に伝わり悪影響になってしまうことが多々あります。プライマリ・ケアや在宅医療だと退院時期というプレッシャーがないことは医療提供者だけではなく、患者さんや家族にもメリットがあると考えています。
受容のプロセスへの理解
個人的な理解では受容とは、現実的な情報や選択肢のメリット、デメリットを理解し、自分の価値観(感情)に沿って意思決定出来る状態と認識しています。患者さんや家族が病気や障害を受け入れられない場合、感情の段階(怒り、悲しみ、否認)にいることが多いと言われます。否認のフェーズにいる場合は、セカンドオピニオンや他の専門家の意見を聞きながら十分な情報収集を進めることが有効です。感情の段階にいる場合は、感情の根源を探り、言語化を支援することで、受容へのプロセスをサポートする必要があります。
多職種連携の課題と可能性
在宅医療や多職種連携において、時間的リソースの不足や情報共有の手間が課題として挙げられました。今後、Web会議や統合的な情報共有システムの導入が進むことで、こうした課題を改善する可能性があります。しかし、入力と確認の手間は病院のカルテと比べて段違いに多く、時間、認識力も消費します。
多職種連携の中で医師は患者の予後予測や治療の方向性を提示する役割を果たすことが期待されていると考えています。また、意思決定支援も医師の役割だと思います。その内容は十分に他職種と共有する必要があり、連携を強化する必要があります。
まとめ
今回の研修で、難病患者の診療には医療者の連携と地域資源の活用が欠かせないと再認識しました。また、新薬の登場により、ALS治療の選択肢が広がりつつあります。こうした情報を共有し、難病患者が適切な医療と支援を受けられる環境作りを目指していきたいと感じました。
コメント
コメントを投稿